夕陽の子猫

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「いきなり()んと、電話くれたらすっと出られたのに」  陽茉莉がスニーカーのつま先をアスファルトでトントンと整えながら口を尖らせ、ポケットから髪ゴムを取り出し、背中まである栗色の髪を後ろでひとつに束ねた。 「ごめん」 「あ、いや、別に良いんやけど。まあ、でもお父さんが出てこなくてよかったねえ」  お母さん似のわざとらしい笑い方でおどけて見せた。  ここまで陽茉莉が怒ってる様子は全くない。息を吐き出すと同時に、安堵して少し胸が軽くなる。  殴られなくて済みそうだ。  しかし、なぜだろうか?  ほんの少しではあるが、正体不明の違和感が消えていない。気のせいだという可能性が高いが、怒らせてもいけないのでしばらく気をつけておくことにする。
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