夕陽の子猫

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 海沿いの街並みは、ずっと昔から変わらない姿で迎えてくれる。夕焼けの志島(しど)湾を眺める。空も海も穏やかで、水面がキラキラとオレンジ色に輝く。 d79251ed-41be-4d29-abd3-8717f9fe2667 91c6b646-f3d7-4adc-a41f-5b2b26192191  あまり風のない、ほとんど静止したような海や空を眺めていると、左の視界の端で何かが下から上に素早く飛び上がったように見えた。  音もなく堤防に着地したのは、濃い茶色と黄色っぽい毛の綺麗な子猫だった。 「あ、猫や!」  陽茉莉は子猫に小走りで寄っていくと、少し手前で減速してしゃがみながらおいでおいでと手を振った。  子猫は一瞬警戒して、しかし逃げずに寄って来て、尻尾をくねらせながら陽茉莉の手の匂いを嗅ぎ、横腹を擦り付けるような仕草をした。 「あはーっ!よいね、よいね!君は可愛いねえ!名前はあるんかな?首輪はないみたいやけど…」 「みー」と子猫が鳴いた。 「みーちゃんかあ!ベタだけど、それもまた良いよねえ!よろしくねー」  陽茉莉はうんうんうんと何度もうなづきながら、ひとりで何かに激しく納得し ている。  夕陽でレンガ色になった子猫は、今度はしっぽをピンと立てながらこちらに近づき、差し出した手の匂いを嗅ぐと「みー」と鳴き、笑ったように見えた。
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