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駅を出ると、雨が降っていた。
まとわりつくような霧雨。静かに、だが確実に体温が奪われるのを感じる。
「ええ……」
駅から家までは30分ほどかかる。幸い傘はあるが、この中を歩いたら多少は濡れるだろう。
夏鈴は困惑したように眉をよせていたが、覚悟を決めて1歩踏み出した。
片耳だけ付けたイヤホンから落ち着いたメロディが流れる。水溜まりに気を付けて慎重に足を進めながら、そっと周りを見渡した。
近くに人影はなく、ため息をつく。
同じ最寄り駅のアイツは、今日は違う電車で帰っているみたいだ。帰り道が途中まで一緒だから、少しでも話せたら、と期待していたのに。
というか、この雨はいつ止むのだろう。もしかしたら明日も降っているかもしれない。
考えるだけで憂鬱だ。
と、
「うわ!?」
突然傘を叩く雨音が激しくなった。
先程までとは比べ物にならない、見事なまでの土砂降り。途端に制服が水気を帯び始めた。
一瞬驚いて固まった夏鈴だったが、それから一変、目を輝かせた。
「すっ……ご!」
こんなに強い雨なんていつぶりだろう。もちろん困っている自分もいるが、楽しさがそれを上回った。
気付けばイヤホンからも、アップテンポな曲が流れ出している。
明日は憂鬱なままだし、今日はもう綺麗な星空は見れなそうだけど、
「でもまあいいよね、こんな日があっても」
そう呟いて灰色の空に微笑む。
水溜まりが跳ねるのなんて気にせず、夏鈴はまた歩き出した。
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