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   私は、あの道と同じくらい嫌いなものが、もうひとつある。 1人きりの夜だ。 お母さんは看護師の為、夜勤がある。 その時は、私は1人きりで夜を過ごす。 孤独感が胸を覆い、苦しくなる。 そして、嫌でも思い出す事故の事… 「お父さん…なんで死んじゃったの?幽霊でも良いから会いたいよ…」 自分でも、馬鹿馬鹿しいと思う。 でも、今夜は寂しさから呟いてしまっていた。 その時、私以外誰もいないはずなのに声が聞こえた。 「……だ…よ…」 (え…今、何か聞こえた?ううん。私しかいないから、そんなわけない。気のせいだよ) 私は、頭を振って気のせいだと言い聞かせる。 「結衣…」 また、声が聞こえた。 背筋に冷たいものが走る。 「え!何?怖い!」 私は耳を塞ぎ俯いた。 何も聞きたくないし、何も見たくなかった。 声が再び聞こえる。 「結衣。お父さんだよ」 想定外の言葉に、私は思わず顔を上げた。 「え…お父さん…?」 「そうそう。お父さん。結衣、こっちを向いて」 私は、恐る恐る振り返った。 すると、目の前に懐かしいお父さんが立っていた。 「お父さん!」 私はお父さんに抱きつこうと手を伸ばしたが、すり抜けてしまった。 「あ〜結衣。ごめんな。お父さん、幽霊なんだわ」 「ええ!!幽霊!何?お父さん、成仏してなかったの?」 私は、衝撃の事実に頭が真っ白になった。 「そうなんだよ。お母さんと結衣が心配でさ、そばでソーッと見てたんだよ」 「お父さん…それ…怖いって…」 「え〜!だって、お父さんだよ。怖くないだろう?」 (頭がクラクラしてきた…このお父さんのノリっておかしくない?) 「お父さん…何で今になって姿を見せたわけ?」 「だってさ、結衣が幽霊でも良いから会いたいって言うからさ〜嬉しくなって姿を見せちゃったんだよね〜」 お父さんが、ニコニコしながら答えた。 やっぱり、ノリがおかしいと思う。 「幽霊って、こんなに明るく出てこないんじゃない?お父さん、陽キャなの?」 私の言葉に、お父さんは首を傾げながら問い返す。 「ヨウキャ?」 どうやら、陽キャの意味が分からないらしい。 「え〜と…陽キャは、明るい性格って意味だよ」 「へぇ〜今は、陽キャって言うのか〜お父さんが生きてた頃は、そんな言葉なかったからな〜ハハハハ」 お父さんは、満面の笑みだ。 私は、思わず頭を抱えた。 まさか、本当にお父さんが幽霊になって現れるとは思わなかった(しかも陽キャで…) 「お父さん、結衣が心配なんだよ。ずっと、あの事故がトラウマになって、あの道を通るのを嫌がってるだろ?」 突然、真顔でお父さんが言った。 「うん…あの道、大嫌い」 「だからさ、結衣にとって、あの道が良い思い出に塗り替えられるまで、成仏しないって決めたんだ」 お父さんがニコニコしながら、私を見ている。 「いや…お父さん、成仏しないって、そんなに明るく宣言する幽霊なんていないでしょ?」 「そうか〜?ハハハハハ!」 豪快に笑うお父さんを、私は複雑な気持ちで見つめた。 (やっぱり陽キャだ) お父さんは、ニコニコしながら私を見ている。 「いや〜結衣と話せてお父さんは嬉しいよ。これから、あの道をクリアすべく2人で頑張ろう!」 「う…うん」 1人で盛り上がるお父さんに、私は引きつった笑顔で答えるしかなかった。 (これから、いったいどうなるんだろう?) お父さんに会えた嬉しさよりも、不安が胸に広がっていった。
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