5人が本棚に入れています
本棚に追加
②
私は、あの道と同じくらい嫌いなものが、もうひとつある。
1人きりの夜だ。
お母さんは看護師の為、夜勤がある。
その時は、私は1人きりで夜を過ごす。
孤独感が胸を覆い、苦しくなる。
そして、嫌でも思い出す事故の事…
「お父さん…なんで死んじゃったの?幽霊でも良いから会いたいよ…」
自分でも、馬鹿馬鹿しいと思う。
でも、今夜は寂しさから呟いてしまっていた。
その時、私以外誰もいないはずなのに声が聞こえた。
「……だ…よ…」
(え…今、何か聞こえた?ううん。私しかいないから、そんなわけない。気のせいだよ)
私は、頭を振って気のせいだと言い聞かせる。
「結衣…」
また、声が聞こえた。
背筋に冷たいものが走る。
「え!何?怖い!」
私は耳を塞ぎ俯いた。
何も聞きたくないし、何も見たくなかった。
声が再び聞こえる。
「結衣。お父さんだよ」
想定外の言葉に、私は思わず顔を上げた。
「え…お父さん…?」
「そうそう。お父さん。結衣、こっちを向いて」
私は、恐る恐る振り返った。
すると、目の前に懐かしいお父さんが立っていた。
「お父さん!」
私はお父さんに抱きつこうと手を伸ばしたが、すり抜けてしまった。
「あ〜結衣。ごめんな。お父さん、幽霊なんだわ」
「ええ!!幽霊!何?お父さん、成仏してなかったの?」
私は、衝撃の事実に頭が真っ白になった。
「そうなんだよ。お母さんと結衣が心配でさ、そばでソーッと見てたんだよ」
「お父さん…それ…怖いって…」
「え〜!だって、お父さんだよ。怖くないだろう?」
(頭がクラクラしてきた…このお父さんのノリっておかしくない?)
「お父さん…何で今になって姿を見せたわけ?」
「だってさ、結衣が幽霊でも良いから会いたいって言うからさ〜嬉しくなって姿を見せちゃったんだよね〜」
お父さんが、ニコニコしながら答えた。
やっぱり、ノリがおかしいと思う。
「幽霊って、こんなに明るく出てこないんじゃない?お父さん、陽キャなの?」
私の言葉に、お父さんは首を傾げながら問い返す。
「ヨウキャ?」
どうやら、陽キャの意味が分からないらしい。
「え〜と…陽キャは、明るい性格って意味だよ」
「へぇ〜今は、陽キャって言うのか〜お父さんが生きてた頃は、そんな言葉なかったからな〜ハハハハ」
お父さんは、満面の笑みだ。
私は、思わず頭を抱えた。
まさか、本当にお父さんが幽霊になって現れるとは思わなかった(しかも陽キャで…)
「お父さん、結衣が心配なんだよ。ずっと、あの事故がトラウマになって、あの道を通るのを嫌がってるだろ?」
突然、真顔でお父さんが言った。
「うん…あの道、大嫌い」
「だからさ、結衣にとって、あの道が良い思い出に塗り替えられるまで、成仏しないって決めたんだ」
お父さんがニコニコしながら、私を見ている。
「いや…お父さん、成仏しないって、そんなに明るく宣言する幽霊なんていないでしょ?」
「そうか〜?ハハハハハ!」
豪快に笑うお父さんを、私は複雑な気持ちで見つめた。
(やっぱり陽キャだ)
お父さんは、ニコニコしながら私を見ている。
「いや〜結衣と話せてお父さんは嬉しいよ。これから、あの道をクリアすべく2人で頑張ろう!」
「う…うん」
1人で盛り上がるお父さんに、私は引きつった笑顔で答えるしかなかった。
(これから、いったいどうなるんだろう?)
お父さんに会えた嬉しさよりも、不安が胸に広がっていった。
最初のコメントを投稿しよう!