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「結衣、見てたぞ〜。弦太くんと付き合ってるのか?」 学校から帰り部屋に入った途端、お父さんが現れニヤニヤ笑いながら言った。 「違うよ!弦太は幼馴染なの!」 「ふ〜ん…」 お父さんは、まだニヤニヤしながら私を見ている。 「お父さん、良いこと思い付いちゃった〜」 「え?良いことって…何?」 「内緒!」 お父さんは、嬉しそうに1人で頷いている。 (何だか嫌な予感する…) 私のこの勘は、翌日見事に的中した。  翌朝目が覚めると、お父さんの姿はなかった。 呼び掛けてみたが現れない。 私は、首を傾げながら準備をした。  玄関を出ると門扉の前に弦太が立っていた。 「よっ!結衣。おはよ〜」 「弦太、待っててくれたの?」 「いや、今来た所だよ」 私は弦太と肩を並べ、駅へと向かう。 その時、左足首を誰かが掴んだ。 「えっ!何?」 私は、バランスを崩し前に倒れた。 地面が目の前に迫る。 (ダメだ!転ぶ!) 思わず固く目を瞑る。 その瞬間、私の体を弦太が抱き止めた。 「結衣!大丈夫か?」 「う…うん。大丈夫。ありがとう」 気付けば、私は弦太に抱き締められている。 私の頬は熱を帯び、胸は早鐘を打っている。 両手でそっと、弦太の胸を押す。 弦太も現状に気付き、慌てて離れた。 「ごめん!」 弦太の頬が、薄らと赤くなっている。 「う…ううん」 私は照れ臭さから視線を下に向けると、地面からお父さんの顔がニュッと出ていた。 思わず悲鳴を上げそうになり、慌てて口を押さえた。 お父さんは、満面笑みで親指を立てている。 そして、そのまま地面に吸い込まれるように消えていった。 「お父さん!!いるんでしょ?出て来て!」 学校から帰り部屋に入った瞬間、私はお父さんを怒り気味に呼んだ。 「結衣!おかえり〜」 お父さんが、目の前に現れる。 「お父さん!今朝のあれは何?」 「あれって何だっけ〜」 「とぼけないでよ!私の足首掴んで転ばそうとしたでしょ?」 「ああ、あれね〜」 お父さんは、笑顔で私を見ている。 「だってさ〜このままじゃ、弦太君と進展しないと思ったんだよね。お父さんは、キッカケを作ったんだよ」 私は、ガックリと肩を落とした。 「お父さん…余計な事しないでよ!あの後、弦太と気まずくなったじゃん!」 「ああ、それは、お互いを意識したからだね。今までは、単なる幼馴染としか思ってなかっただろ?でも、お父さんのちょっとしたキッカケのおかげで、お互いを意識したんだよ」 したり顔で頷くお父さん。 私は、そんな姿を見てイラッときた。 「勝手なこと言わないで!弦太が一緒にいてくれるから、あの道もなんとか歩けてたのに…私なりに、頑張って乗り越えようとしてたんだよ」 「うん。結衣が乗り越えようとしてるのも、弦太君のおかげであの道を歩けてるのも知ってる」 両手を思わず強く握り締める。 何とも言えない怒りが込み上げ、私の胸を覆い尽くす。 「お父さん…勝手だよ。突然、私の前からいなくなって…私とお母さん凄く大変だったんだよ。少しずつ、お父さんがいない生活に慣れるしかなくて…それで突然、幽霊になって現れたと思ったら、私と弦太の関係をおかしくしてさ。何なの?私を苦しめたいの?」 怒りに任せ言葉を捲し立てる。 気付けば、私の目から涙が零れ落ちていた。 「結衣…」 お父さんは、悲しそうな顔で私を見ていた。 「ごめん…結衣。お父さん、そんなつもりはなかったんだ…ただ、結衣にもう一度、本当の笑顔を取り戻して欲しかったんだ…」 お父さんは俯くと、スッと私の前から消えた。
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