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⑥
「お…お待たせ…」
私は、肩で息をしながら玄関のドアを開けた。
「そんなに急がなくても良かったのに。急に来た俺が悪いんだし」
私は、頭をブンブンと振り弦太を見た。
すると、弦太は一瞬眉根を寄せ、手を伸ばすと私の瞼を指でなぞった。
「瞼腫れてる」
私の胸は早鐘を打ち、頬が熱くなっていくのを感じた。
「え!えっと…昨夜、夜更かししたからかな…」
こんなにも動揺する自分に疑問が湧く。
ふと弦太の顔を見ると、彼の頬も薄っすらと赤い。
でも…弦太は手を引こうとはしなかった。
弦太が触れた瞼は更に熱を持ったが、このまま触れていて欲しいと思った。
(そうか…私は弦太の事が好きなんだ…)
突然、頭に降って来た答えが私の胸にストンと落ちる。
私と弦太は暫く見つめ合っていた。
私を見る彼の目は、とても温かい。
どれくらい時間が経っただろうか…
弦太は私の瞼から手を引くと、照れ臭そうに言った。
「結衣…ちょっと歩かないか?」
「うん…良いよ」
私達は肩を並べ、毎朝歩くあの道を歩いた。
「実はさ、俺…不思議な夢を見たんだ」
「夢?」
「うん。結衣のお父さんだって言う人が夢に出て来た」
「え?お父さんが?」
私は、驚いて弦太を見上げた。
「うん。それで、その人は言ったんだ。結衣をお願いしますって」
弦太の言葉に私は思わず足を止めると、バッグからスマホを出し1枚の写真を見せた。
その写真は、私とお父さんの写真。
亡くなる前に撮った写真だった。
「夢に出て来た人って…この人?」
写真を見せると、驚きから弦太の目が大きく見開かれた。
「この人だよ!間違いない!」
「やっぱり…お父さんだ…」
お父さんは、私の前から消えた後に弦太の所に行ったに違いない。
「お父さん…」
私の目から涙が溢れ落ちた。
「お父さん…酷いこと言ってごめんなさい…」
涙が私の頬を伝う。
「結衣…泣くな…」
弦太の声に顔を上げると、再び彼の手が伸びて涙で濡れた頬を拭ってくれた。
「何があったのかは分からないけどさ、お父さんは、結衣のことを大切に思ってるんだよな」
私は、何度も頷いた。
その時、突然後ろから声が聞こえて来た。
「結衣、弦太君」
私達が振り返ると、そこにお父さんが立っていた。
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