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あまりの痛みに意識が飛ぶが、心の奥底から湧き上がる復讐の念が美雷を支え、気力で起き上がる。再び人型病魔に斬りかかるが、冷静さを失った美雷の攻撃は単調で、力任せに振り下ろす刀は簡単に躱されてしまう。病魔は軽やかに横に身を躱し、その冷たい笑みを浮かべながら、まるで美雷の苦しみを楽しんでいるかのようだった。病魔は不気味にニヤリと笑い、まるで自分の勝利を確信しているかのように言った。「まだまだ未熟、もっと楽しませてよ」と。次の瞬間、彼の拳が美雷の顔面を直撃した。普段なら容易に避けられるはずの攻撃が、怒りで注意力が散漫になっていた美雷には受け止めきれなかった。衝撃が走り、彼女の視界が一瞬真っ黒に染まる。
口の中に血の味が広がるが、それでも彼女は立ち上がり、雷を纏った刀を握りしめ、病魔に斬りかかる。「つまらない、つまらない。もっと絶望を味あわせておくれ」と病魔が言い放つと、口から霧状のものを吹き出した。咄嗟に口を塞ぐ美雷だが、その隙に病魔が距離を詰め、一撃が彼女の鳩尾を直撃する。彼女はその場に嘔吐し、さらに霧を吸い込んでしまう。瞬時に全身を襲う倦怠感が彼女を包み、視界が狭まり、身体が火照り始める。
病魔が吐き出したものは、薄い霧状のウイルスだった。それを吸い込むか、傷口から感染させられると、風邪や重い病に侵される。このクラスの病魔のウイルスは特に毒性が強く、どんなに体力や免疫力があっても、その魔の手から逃れることはできない。美雷たち隊員は毎年複数のワクチンを接種し、病魔からのウイルスから身を守っているが、今はそれも無意味となってしまう。
動けなくなった美雷の背中を踏みつける病魔が、冷酷に言い放つ。「さぁさぁ、絶望しろ。こんなものではないだろ?」美雷は抵抗を試みるが、身体が思うように動かない。「私はこんなにも弱かったのか」と無力な自分を責める思いが胸を締め付ける。このまま楽になるのもいいかもしれないと考えかけたその時、優しい声が耳に届いた。「美雷ちゃん、起きなさい。貴方はそんな病魔に負けるほど弱い子じゃないはずよ、なんせ私が育てたんですもの」その声と同時に、病魔は巨大な樹の根に突き出され、外に吹っ飛ばされる。
美雷の横には千樹の姿があり、彼女は美雷の腕に、針を突き刺す。その時体内に何かが流れ込む感覚が広がった。その瞬間、身体の中から重く感じていた倦怠感が抜け、じわじわと温かさが広がっていく。火照っていた肌も冷まされ、視界がみるみる鮮明になった。
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