対病魔戦

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その被害を抑えるべく、空が駆けつけた。「ちょっと、僕が来るまで待ってて言ったよね!?後で怒られるのは僕なんだから、勝手に始めないでよ!」 煉の炎を処理できるのは、同じチームの空が適任だった。青白磁家はメディカンや病院に滅菌水や滅菌精製水を提供する名家の一つである。サポート側に向いている家だが、空は特異だ。青白磁家の最年少で神装を会得した滅菌者であり、その実力は確かである。 「君の後始末係じゃないんだからね、何か美味しいもの奢ってよ!潤せ、綿津見神(ワタツミ)!」と空は言いながら、体を水の球体が包み込み、美しい海の色の着物を纏った。周囲には幾つもの水球が浮かび、空の指示する方向に飛んでいき、次々と弾け飛ぶ。煉の起こす熱波による被害を抑えながら、近くにいる隊員たちを守るために水の壁を築いていく。 イルネスたちは滅菌され、この現場は落ち着いたが、通信部からの連絡によると、まだまだイルネスの発生は治まっていないらしい。「空、次行くぞ。美雷は放っておいても大丈夫だろ。」神装を纏ったまま、二人は移動を開始する。炎と水という相反する二つが、互いを相殺することなく進んでいく光景は、まるで神秘的な舞踏のようであった。 一方姫華は状況の厳しさをひしひしと感じていた。病魔によるウイルスに感染した隊員たちが次々と運ばれて来る中で、彼女の役目はただの治療にとどまらず、指揮官としての判断力も求められていた。インフルエンザ、コロナ、性病、風邪など、感染症の種類はさまざまで、どれも異なる治療法が必要であった。応援部隊も到着しているが、怪我をした一般人の治療も行っているためか、中々治療が進まない。 姫華は、演奏を続けながら、内心で苛立ちを抑えていた。指先が疲れ、肩が凝り、心は徐々に限界を迎えているのを感じながらも、彼女は必死に奏で続けていた。治療に必要な音楽を、ひたすらに、途切れなく。それは一種の儀式であり、命をつなぐための手段だった。「あいつら、早く終わらせなさいよ、このままじゃ、私過労死するわ!」姫華が神装を使わないのは、今の力を2倍しても治療できる人数が変わらないからである。そして、少し顔をしかめながらも、心の中で心を奮い立たせた。「虹色のあの人がいたら…きっと手伝ってくれるだろうけど、今はあの人がいない。それでも私はここでやるべきことがある。無駄にしてはいけない!皆、もう少し頑張ろう!」 そして場面は美雷のところに戻る。 美雷は、神雷霆を放った直後、荒れ果てた跡地に立ち尽くしていた。彼女の目の前に広がっていたのは、まるで大地が焼かれたかのような光景だった。滅菌された病魔は、もはやその形を留めておらず、真っ青だった身体が黒焦げになり、見るも無惨な姿となって地面に横たわっている。まだ少し動いているのを見て、生きていることに驚いた。
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