ご近所カプリッチョ

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 問題はバイト先だ。  大学近くが便もいいのだが、帰るのが途端に億劫になる。いつでも入り浸れるような関係の人もいない(カノジョとか、彼女とか、恋人とかだ!)。  しかも夜中の住宅地の夜道はけっこう危険で、シンヤは自動車に曳かれそうになること三回で、深夜または早朝のコンビニバイトは下宿の近くにすることに決めた。人手不足の折だ、早速、週二、三日入ることになった。  深夜早朝は時給が高く、シフトに入る人員も少ないのでやることが多いが、更に言えば客も少ないので、それほど辛くはない。面倒な人付き合いも生じないので、シンヤとしては気が楽だったし、ちょっとした楽しみ(?)もあったので。  夜中に来る客のほとんどは常連だが、その中にとても綺麗な顔の男性が居た。  最初に見たときは、思わず二度見どころか三度見した。それ以降もつい目で追ってしまう程度の美形で、立ち姿まで艶やかだ。服装は学生っぽく無造作だが、そのまま中目黒のシャレオツカフェにいてもおかしくない存在感だった。  家族経営のコンビニなので、隣接のお宅に住む店長や奥さんにちらっと訊ねると、あっという間に身元は割れた。  まあ、あれだけ目立つならそれも当然だろう。 「K大の院生さんやて。物理がどうとかゆうてはったけど。なんや難しゅうてようわからんわ」  奥さんはあっけらかんと笑う。  K大の物理、って……いわゆるガチのインテリなのでは?  シンヤの想像の外である。佇まいから芸大や美大の学生かと予想していたのだが。端麗な容姿とは違って、どことなく鋭利な空気感なのだ。まあ、変わり者が多いことで有名なK大だ、あのひとでも馴染むのかもしれない。  と、シンヤは手前勝手に納得した。
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