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中編「晴明の不安」
◇今回の登場人物◇
・安倍晴明
都の天才陰陽師。美夕の保護者で兄の代わり。
・蘆屋道満
素性不明の法師陰陽師。美夕を一途に想っている。
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彼の話では、特別なばれんたいんちょこれいとは。冥府でなければ手に入らなく。
冥府の食物を現世の人間が食すと、二度とこの世には戻ることが出来なくなるらしい。
「それでは、どうすれば良いのですか?」と美夕がしょんぼりしていると。
篁が頭をぽんぽんと軽く叩き慰めた。
「ちょこれいとじゃなくたって。お前の想いを込めて好きな奴に渡せば良い。
お前が作ったものなら、あいつは受け取るだろうぜ。」
「そう…でしょうか」美夕は顔をぱあっと明るく輝かせた。
「ありがとうございます。私、頑張ってみますね!」
美夕はぺこりと、お辞儀をすると自室に帰って行った。
「はは、健気だねえ…どことなく義妹に似ている気もするな。」と美夕の後ろ姿を眺めながら篁はつぶやいた。
美夕は都の街で干菓子の材料を買うと、炊事場にこもって作り始めた。
やがて、綺麗な薄い桜色と白の小さな、甘い干菓子が出来上がった。
「ふふ…上出来!おまじないを掛けてと。晴明様、喜んでくれるかな?」
と美夕は微笑み、干菓子を一つ口に放り込んで味見をしてみた。
すると結構美味しく出来ていて、ばれんたいんの日が楽しみになった。
―――やがて、ばれんたいんでいの日が来て。
美夕は、干菓子を和紙に包んで綺麗な着物の切れ端を細く切り、
りぼんのようにして和紙を巾着のように結んだ。
まずは、お礼を兼ねて篁に手渡し、その後に道満に渡して行った。
しかし、その光景を見ていた晴明は少し不機嫌になっていた。
「む…道満と篁に渡しているあれは…確か。今日は、冥府での行事ばれんたいんでいと言うものか。なぜ、美夕はあの二人に?いやいや、私達は家族ではないか…私は何を。」
と晴明はいつもの彼らしくない胸中で、むかむかして不安になる。
気もちを抑えて彼は、夕餉の食卓に着いた。
夕餉を取っている間も晴明は、美夕が気になって仕方がない。
ついちらちらと何度も、見てしまう。
「何か御用ですか晴明様? 先ほどから良く目が合いますが…」
美夕が不思議そうに彼に問いかける。
道満は、美夕に干菓子をもらって上機嫌で篁は、事の次第を知っているので心底、面白そうに声を押し殺して笑っている。
「ああ、すまぬ。何でもない…」
晴明は思わずごまかしたが心の中で考えていた。
美夕が冥府の行事を知っているかは、解らぬが。なぜ、あの二人なのだ?あの二人の内どちらかを好いているのか。いやいや、私は兄として養う者として美夕が嫁に行くまで見守らなければ!
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晴明様ドキドキの回でした。
最終話に続きます。
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