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第二十二話「不気味な影」
◇今回の登場人物◇
謎の鬼の男 (炎獄鬼?)
見世物小屋の主人とごろつき達を操り、晴明達を襲わせる。どうやら、晴明達を知っているようだが…
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「こりゃあ、凄い」
店主は生唾を飲み込んだ。店主は大金が舞い込むとわかった途端、
さらなる欲の芽が出てきた。人魚も失わず晴明も美夕も手に入れられれば
この先、いくらでも金を稼ぐ事ができる。強欲で傲慢なこの男の欲は
とどまるところを知らなかった。
そのことを晴明は、いちはやく見抜いていた。
「キャア!」
何と、店主は美夕を、羽交い絞めにして
小太刀を突き付けて人質に取った。
「なんのつもりだ」晴明は冷やかに睨んだ。
「へへへ……。あんたの水晶も、あんたもあんたの連れも、人魚も。
全部、俺のもんだ。あんたにゃ、全部あきらめてもらう!
そんじゃなきゃ、こいつを傷物にするぜ」
「晴明様! 私大丈夫ですから。人魚さん、助けてあげてください」
美夕は震えながらも、気丈に振る舞った。
「そう、上手くいくかな? 女の顔を傷物にはさせん」
晴明は薄く笑うと一瞬にして店主の後ろをとり、小太刀を叩き落とし手首をひねりあげた。
「ぎゃああ! 痛てててて!! 放せ、お願いだ! 腕が折れちまうよ!!」
店主は顔を真っ青にして痛がっている。
「愚か者め! この私がお前などに屈すると思ったか。
この強欲な男め! 二兎を追うものは一兎もえずだ!」
晴明は凍てつくような眼光で射貫いた。
「ちくしょう! 化け物め。覚えていろよ!」
捨て台詞を吐くと、水晶も持たず一目散に逃げて行った。
「大丈夫か? 美夕」晴明が美夕を気遣うと
美夕はふーっと息を吐いて「ありがとうございます。晴明様」とにっこり笑った。
水晶を大切そうに拾い、晴明は美夕と共に小屋の中に入った。
小屋の中には人魚がつかったたらいがあった。
人魚に近づく晴明。晴明を見て怯えた様子の人魚。
「あなたは誰」と問いかける。
「私は安倍晴明と申す者。怯えなくていい」
「あなたをあのあくどい店主から救いにきたのよ。人魚さん」
「私は美夕といいます! 人魚さんのお名前は?」
人魚は驚きながらも「あたし、あたしはカロリーヌ。本当にここから解放してくれるの?」
「ああ、案ずるな。我々はそなたの味方だ」晴明はうなずきカロリーヌの髪を撫でた。
一方、逃げた店主は街の一角でキセルを吹かしていた。
「くそーっ! あの化け物め! 目にもの見せてやる」
その時、どこからともなく声が聞こえてきた。
――くくくっ。その望み叶えてやろうか?――
「誰だ―! 姿をみせろっ」店主は怒鳴った。
柱の陰から突然、赤い髪を持つ男が現れた。その目は金色だ。額には角がある。
「我は炎獄鬼! 我に従え。さすれば、望むものが貴様の物だ」
気が付いた時には既に遅し、店主は妖術に掛かってしまった。
「お前は安倍晴明と美夕という化生を我に差し出せ」
「ワー! 炎獄鬼サマ。ばんざい!」
「ふふふ、愚かなものよ。人間というものは目先の欲に囚われて」
ぞろぞろとごろつきが集まってきた。
「ゆけ、化生を連れて来いそして、生き肝をわが手に」
ごろつき達に命令すると、炎獄鬼は高笑いをしながらふっと姿を消した。
晴明と美夕は、夜になるのを待つと人魚に大きな布を被せ荷車に乗せて引いていく。
海岸に差し掛かった時、あの見世物屋の店主と雇われたごろつき達が、待ち伏せていた。
しかし様子がおかしい。皆、まるで獣のように吠えている。
「うおおう、うおおう。炎獄鬼サマ。ばんざい! 化生捕える!」
「なんだと、炎獄鬼!? こやつらは操られているのか」
とっさに美夕とカロリーヌを後ろ手で守った。
ごろつき達は晴明達を取り囲み刀を抜いた。
「美夕。カロリーヌ殿を守れ! 私の側を、離れるでないぞ」
晴明は腰から下げている刀を抜き放った。
ごろつき達は晴明達に襲い掛かってきた。
晴明は、刀をひらめかせて二人をみねうちで倒した。
ごろつきが今度は、美夕に襲い掛かってきた。
「美夕!」晴明が叫ぶ。
「負けませんよ!」
美夕は手のひらから紅蓮の炎を放った。
「ぎゃあ! あちち!!」
ごろつき達の尻に火がついた。叫びながら、海に飛び込む。
「次は、お前の番だ」
晴明は呪を唱えながら鋭い刀の切っ先を見世物小屋の店主に向けた。
呪に掛かりはっと我にかえった店主は刀に気づいて真っ青になった。
「なっ!? ひーっ! 命ばかりはお助けください!!」
「命は取らぬ。それより炎獄鬼とか言っていたな。教えろ」
店主は怯えながら言った。
「しっ、知らないですよ。あっ、でも角のある変な男がそう言っていたかも」
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