第十九話「最愛のひと」

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第十九話「最愛のひと」

・ブロマンス要素があります。 🌛・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・🌛 美夕は桃色の舌を出し恐る恐る、晴明の血を舐めてみた。 晴明の血は、想像していた以上に美味だった。 美夕は無我夢中で、晴明の腕をしゃぶった。 その姿を晴明は、哀れみの念を込めて見詰めていた。 「そこまでだ!」 篁は美夕の両肩を掴むと無理矢理、晴明から引き剥がした。 「もっとぉ、もっと血をちょうだい!」 らんらんと金色の目を光らせ、手を伸ばし血を求める美夕を見た、篁は眉根を寄せ。 チッと舌打ちすると晴明を冷たい視線で睨み。 「何のつもりだ? 晴明!鬼女に成り掛けている美夕に自ら、血を与えるなど!それは、優しさではない! お前の自己満足だ!!お前は本当に、この哀れな娘を救う気があるのか!!?」 と怒り晴明の胸倉を掴んだ。晴明は切なげな表情をし、 「すまん、篁……俺は美夕が、あまりにも哀れで見ていられなかったのだ。俺の血で美夕の気が収まるならとそう、考えてしまった。我ながら甘過ぎたと思う。陰陽師に有るまじき行為だ」と頭を下げた。 「良いか? もう二度と、血を与えようと思うな!美夕の事を、本当に大切に思っているならな!」 と篁は言うと水干のたもとから、和紙に包まれた物を取り出した。 「約束の鬼女化を止める薬だ。噛まずに飲み込め」と 篁は紙を広げると、豆粒大の薬をつまみ、美夕の口の中へと入れた。 美夕はゴクンと飲み込んだ。 すると、急に意識が遠くなり美夕はふらりと倒れ掛かってきた。 いつの間にか晴明は、元の姿に戻っていた。冷静に美夕を受け止める晴明。 それを見て、道満が駆け寄ってきた。 「篁っ! 美夕ちゃんに何をしたんだ!!」と声を荒げる。 篁は、すました顔で言った。 「相変わらず、うるさい男だ。これは朱雀の丸薬の効果だよ。 飲むと薬草の副反応で、一時的に意識を失うんだ…… まあ、害は無いから心配しなくて良い」 道満はホッと胸を撫で下ろした。 篁は一振りの刀を取り出し、 「受け取れ!」と晴明の方へほうった。美夕を抱いていない方の手で、刀を受け取る。 「何だ、これは。」と篁に聞くと、篁はにやっと笑い。 「お前は、試練に見事合格した。合格したら、閻魔王様にお前に渡せと、頼まれていた物だ。名を吹雪刀という。冥府の名工と呼ばれる刀鍛冶が、打った。極寒地獄の吹雪を呼び出して、使う事の出来る呪がその刀身には刻まれている。 むろん、切れ味も折り紙つきだ! 抜いてみろ」 晴明は吹雪刀を抜き放った。金色の呪が刻まれた美しい蒼い刀身が現れた。 はらはらと、イチョウの葉が目の前に落ちてきた。 晴明は刀をひらめかせると、イチョウの葉っぱが二つに切れた。 晴明は抜群の切れ味に思わずうなり、 「ほう! これは、良い刀だ。篁。 美夕の薬の事も併せて、閻魔大王様に礼を言っておいてくれ。」 というと、篁は晴明を見て 「いや、礼なら身体で払ってもらおう。 実はお前には、炎獄鬼(えんごくき)の討伐命令も出ているんだ」 それまで、黙っていた道満が抗議した。 「ちょっと待てよ! 晴明ちゃんは、あの過酷な試練を見事、戦い抜いたじゃないか!それじゃあ不満足なのかよ!? なんで、お前ら地獄側の問題をこっちに持ってくるんだ!!」 すると、篁は鋭く目を細め 「ほう? 我らが、閻魔王様のご命令に楯突く(たてつ)か?この命知らずが」 とギロリと冷ややかに道満を睨んだ。 「うっ……!」 その凍てつくような眼力に道満は、背筋が凍りついた。 その時、そっと晴明が左手で篁を制止した。 「晴明!」 篁は眉根を寄せ、晴明を見上げた。 「篁、道満は私の身を案じてくれたのだ。 無礼はどうか、私に免じて赦してやって欲しい」 と、晴明は篁に軽く頭を下げた。 篁は「お前がそう言うなら……」と、表情をゆるめた。 思わず胸を撫で下ろす道満、晴明は道満に言った。 「道満、私は今回の命を受けようと思う」 どうしてと、詰め寄る道満に晴明は真剣な表情で 「私はな、道満。美夕が一人呟いているのを聞いてしまったのだ。母を殺した、憎い敵の父親を自分の手で殺すと。そう、美夕は涙を流しながら言っていた。あの優しい娘に親を殺せるはずがないのだ……だから、炎獄鬼は私が倒す! 美夕の手を汚れさせはしない!」 「晴明ちゃん……」 それを聞いて、道満は自分も力になれたらとそう思った。 ◆ ◇ ◆ 美夕は次の日になっても、目を覚まさなかった。 燭台の灯りが、暗い部屋をぼんやりと、照らしている。 美夕は、自分の部屋で目を覚ました。 「目を覚ましたのかい? 美夕ちゃん。身体……なんともない?」と、 道満が心配そうに問いかけてきた。 どうやら道満は美夕が心配で寝ずにずっと、 付き添っていたらしく、目にクマが出来ていた。 そんな道満を美夕が気遣い。 「私はもう、大丈夫です。すみません。 道満様こそ、私の為に……眠っていないのでしょう?」 と心配すると、道満はわははと笑い。 「そっか。良かった! 大丈夫! 俺は、頑丈なだけが取り柄だから。 それよりも、心配なのは晴明ちゃんのことだよ。 晴明ちゃん、あれから屋敷に帰ってきてそれっきり、死んだように眠ったままで。ぴくりとも、動かないんだ……今、白月ちゃんと篁が介抱してる」と、うつむくと。 美夕は、ぶるぶると震え。「晴明様!!」と叫ぶと、 部屋から走り出て、晴明の部屋へと向かった。 美夕がふすまを開けると、篁が晴明の傷に塗る薬草をすり潰していて、 白月は晴明の包帯を変える所だった。 🌛・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・🌛 あと、一話で第三章が終わります。 よろしくお願いいたします!
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