コドウ

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 それから数日後、また仕事で帰りが遅くなりました。先日のように終電で帰ってきたわけではありませんでしたが、駅前には人の気配がまるでありませんでした。コンビニで買い物をして、家へと歩いていく途中、また薄気味悪い路地の入口で立ち止まってしまいました。終電で帰ってきたわけじゃないし、そんなに疲れてもいませんでしたので、気持ち悪さを我慢してこの路地を通る必要はありませんでした。しかし、俺はまたも何かに誘われるように路地へと入っていってしまいました。そして、また明滅する街灯の下にあの女を見つけました。  女は先日と同じように這いつくばって何かを探しているようでした。俺は同じように女の横を通り過ぎようと思いました。 「コ…ウコド…がない」  女は先日と同じようにブツブツ言っていました。怖いもの見たさというものでしょうか、俺は歩くスピードを緩め、女を観察しました。  女は赤色でダボっとしたノースリーブのワンピースを着ていました。ストレートの髪は痛みすぎて野生のライオンのたてがみのように立っていました。その髪は『蠢く』という表現がしっくりくるほど、這いつくばる女の動きに合わせ魔物の触手のように揺れていました。赤色のワンピースからガリガリの手足が伸びていました。ギョッとしたのは女が裸足だと気づいたからでした。舗装されていない土の地面に這いつくばっていたからでしょうか、手も足も真っ黒に汚れていました。  見れば見るほど気味が悪い。そう思いながらも目を離せずにいると、女が、左肩から背中を斜めに通って右脇腹へと帯のようなものを懸けていることに気がつきました。 (なんだ? あの帯)  前はどうなっているのか気になりました。女が這いつくばっているので見えにくくなっているお腹あたりの帯を見ようと、俺は上半身を少し倒しました。左肩から右腰にむかって伸びている帯は、なにかが入っているように膨らんで見えました。この帯、どこかで見たことがあると思いました。俺は必死になって思い出しました。 (え? 抱っこヒモ?)  俺はハッとしました。 (え? じゃあ、あの膨らみは、赤ちゃん!?)  女が赤ん坊を抱っこして這いつくばって何かを探している。こんな夜中に。こんなに薄気味悪い路地で。  俺は歩く速度を早めました。路地を抜け、急いで家へと帰りました。家の中に入るとスーツも脱がずに隠れるように布団を頭から被りました。そして、誰かが追いかけて来ていないか耳を澄ませて外の様子を伺いました。  そのままその日は朝になるまで一睡もできずガタガタと震え続けました。
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