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幼い頃、僕の家庭は酷く貧しく、食べるものさえない時があった。
そんな時、僕はお腹が減りすぎて寝付けず、意味もなく外に出ては空を見上げていた。
(……あ!)
そんなある時、暗い夜空を飛ぶ舟のようなものをみつけ、そのことをすぐさま父に話した。
すると、父は強張った顔をして、僕を叱った。
「嘘を言うのは良くないことだ。空を飛ぶ舟なんていない。
夜は早くに寝るもんだ!」と。
なぜ叱られるのかもわからず、僕は今度は同じことを寝たきりの祖母に話した。
「僕は嘘なんて吐いてないよ。本当に見たんだ。
綺麗な明りを灯した小さな舟を…」
「それはな、楽園に行く舟だよ。」
「……楽園?」
「そう…病気もなければ、貧乏もない。
とても幸せな美しい楽園に行く舟だ。」
「じゃあ、うまいものも食べられるんだね!
僕もあの舟に乗りたい!」
「そうだね…いつか乗れると良いね。」
舟のことは、誰にも言わないようにと祖母に釘を刺された。
僕自身、理由はわからないものの、言ってはいけないことなのだと思っていた。
その後も僕は何度か、楽園行きの舟を見た。
楽園とは、一体、どんなところだろう?
どうすれば、あの舟に乗れるのだろう?
幼い僕は、常にそのことを考えた。
誰もが行きたいと願う楽園…
そこに行くにはきっと法外なお金がかかるのではないか?
お金を持つ者が良い想いを出来るのは世の常だ。
僕は、楽園に行くために、大人になったら思いっきり働いて、お金を貯めようと決意した。
とにかくお金を稼いで、家族みんなを楽園に連れて行ってあげたいと思うようになっていた。
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