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中学になると、僕は早速新聞配達を始めた。
僅かな金額とはいえ、自分が稼げるようになったことが嬉しくてたまらなかった。
高校を卒業すると、僕はますます働くことに没頭した。
同世代の若い子たちのように遊びに興じることなく、ただただ働いた。
お金を稼ぐことだけが、僕の楽しみだった。
やがて、僕は小さな商店を始めた。
商売は、面白い程順調で、利益はどんどん増えて行った。
店が大きくなるにつれ、人手も必要になって来る。
僕は事務員をひとり雇うことにした。
友人が真面目な人だと言って紹介してくれた女性と会うことになった。
その女性はとても魅力的な人で、僕は一目惚れしてしまった。
彼女は僕と同じような環境で育った人で、困った人を見すごすことの出来ない優しい人だった。
彼女と接するうちに、僕はどんどん彼女に惹かれていった。
何度かのデートを重ね、岬の灯台の前で僕は彼女にプロポーズした。
彼女はそれに応じてくれた。
そして、僕達は結婚した。
まさに、僕は幸せの絶頂にいた。
「あ……舟が……」
結婚するまで、僕はとにかくがむしゃらに働いていたから、舟のことを忘れていた。
いや、夜空を見上げるゆとりがなかったのだ。
「どこ?私には舟なんて見えないわ。」
妻はきょろきょろしながら空を見上げる。
「見えない?そっか、君は目が悪いからだね、ほら、あそこ…よ~く目を凝らしてごらん。」
僕は舟を指差した。
「どこなの?見えないわ。」
彼女は舟を見つけることが出来なかった。
その後も商売は順調で、気が付けばお金にもゆとりが出るようになっていた。
家族も、人並みの暮らしが出来るようになり、妻のすすめで施設に寄付等も出来るようになっていた。
けれど、それでも、僕の頭の中には、まだあの楽園行きの舟のことがこびりついて離れなかった。
今の僕にはそこそこの資産がある。
きっと、もうあの舟に乗れるはずだ。
だが、あの楽園行きの舟の乗り場はなかなかみつからない。
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