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「…なぁ、進藤…。許さなくても良い、でも…聞いてほしかったんだ。俺は本当に心の底から反省してるってこと……。」
秋人の言葉が嘘だとは思えなかった。それは彼の表情が物語っていたのだ。
千春はその表情を見たことがあった。紛れもない、幼い頃の自分そっくりだった。
何かに苦悩し、疲れ果てた人間の顔。秋人の顔はまさにそれだった。
許すつもりでいた。しかしそれ以上に、彼の中にはある疑問が浮かんでいた。
「…あ……」
乾燥した唇から乾いた声が漏れる。
「あの事件って、なんだ…?」
千春の言葉に秋人は驚愕していた。眉間に皺を寄せ、千春を凝視していたのだ。
「…覚えてないのか?お前…。」
「……わからない。少し…思い出せそうで…思い出せない。」
秋人と再開した瞬間、彼の脳裏に浮かんだのは彼との苦い思い出だけだった。
小学生時代の過酷な日々、それだけであった。事件と呼べるような大事はなかったはずだ。
千春はパズルのピースが合わないもどかしさを感じていた。思い出したくはないが、思い出さなければならないと、心の奥底では感じていたのだ。
「……まぁでも、思い出さなくても良いと思う。お前はもう関係ないから…。」
しかし秋人はそれだけ言うと再びコーヒを啜り始めた。
だが千春は少々納得いかなかった。彼なら全てを知っているのかもしれない、幼い頃の記憶を思い出させる何かを…。
ここで全てを思い出せば、何かが変わるかもしれない。確信はないが千春はそう感じていた。
「…何が、あったのか。…教えてくれないか?」
一向に減らない自分のコーヒーを見つめながら、千春は呟いた。
秋人は彼のその言葉に酷く動揺している様子だった。瞳が泳ぎ、口を数回パクパクと動かした。
「……い、いやでも……お前……。」
秋也はしばらくの間狼狽し、窓の外や店内をキョロキョロと見回した。
まるで聞かれたらまずいことでも話すかのように、かなり挙動不審な様子だった。
しかしそんな仕草を見たところで、千春の中で増すのは探求心のみである。
「…できればで良い…。でも、俺は知りたいんだ……。」
覚悟が完璧にできているわけではなかった。しかし、知りたいという気持ちは抑えられなかった。
彼が言う事件とやらを聞ければそれで良かったのだ。
「………お、お前…。知ってどうする気だよ…。忘れてた方が良いことだって世の中には沢山あるんだぜ…?」
秋人の言葉に千春は少々黙り込む。彼の言うことも確かではあった。
しかし、このもどかしさが消えるのならなんだって良かった。忘れるのならば完全に忘れ、思い出すのならば完璧に思い出したかったのだ。
「……別に、ただ思い出したいだけ…。」
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