記憶「小学生」

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「進藤が来たぞ!」  賑わう教室内に突如轟くその言葉。何人かの生徒が待っていましたと言わんばかりに立ち上がる。 そして教室に入った千春の前に立ち塞がるように立ち、彼の行手を完全に阻んだ。 「相変わらずオカマみてぇなツラしてんなお前。」  行手を阻む男子生徒の一人が千春を指差しながら言う。 千春は何も言い返すことも逃げることもなく俯いていた。両手でランドセルを握り、湿った上履きの気持ち悪さを感じていた。 「なに無視してんだよお前、なんか言い返してみろよ。」  真正面に立っていた朽葉色の髪の少年は千春の肩を軽く小突いた。それを見て周りの生徒が笑う。 少年の服につけられた名札には『五十嵐 秋人』と名前が綴られていた。千春は長く不揃いな前髪の隙間から彼を睨みつける。 するとその態度が気に入らなかったのか、秋人はクラス全体に響き渡る大声で叫んだ。 「知ってるか皆?こいつ親に捨てられたんだってよ!だからヨーゴシセツ?ってとこで暮らしてんだぜ?」  机を合わせ雑談していた女子たちは千春を見ながらヒソヒソと何かを話し始める。隅で本を読んでいる物静かな生徒でさえも、彼に軽蔑の視線を向けていた。 「しかもあそこのおっさん、前科持ちだって俺の父さんが言ってたぜ?お前犯罪者の家で生活してんの?」  秋人は心底人を小馬鹿にするような顔で千春を見た。歪んだ目元に吊り上がった口元。まるで遊園地のピエロのような不気味さを醸し出していた。 周りの男子たちは「犯罪者」「社会のゴミ」と千春を囲い囃し立てる。その中心にいるのはいつも秋人だった。  千春は彼にいじめられていた。何が引き金になったのかは不明だった。気づいた頃には徒党を組んだ彼らに毎日のようにいじめられていたのだ。 持ち物を隠され、壊されるのは日常茶飯事。掃除中は雑巾を投げつけられ、箒で頭を叩かれた。机には悪口が彫られ、引き出しの中には時折画鋲が撒き散らされていた。 授業中は後ろの席から丸まった紙を投げつけられた。ズタズタにされた教科書では勉強することなどできず、彼はただただ黒板に書かれた文字をノートに無心で書き続けた。 そのノートも水に沈められてしまった日は、彼はただ机に座り黒板を眺めるだけだった。  千春は抵抗することも、助けを求めることもなかった。  自身が耐えればいずれ終わることだと、そう心のどこかで信じていたのかもしれない。
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