記憶「小学生」

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 体育の時間。授業が終わる十分前から設けられている自由時間の最中、千春は体育倉庫に連行されていた。 薄暗い倉庫の中、幸薄そうに俯く彼を秋人を中心に男子生徒たちが囲む。皆バスケットボールを抱えていた。 「お前んとこのシセツのおっさん、“ろりこん”ってやつなんだろ?俺の母ちゃんが言ってたぜ、昔子供にちょっかい出したって。」  秋人の背後にいた生徒が千春を指差し嘲笑う。 それに同調し、誰かが続けて彼に暴言を浴びせた。 「気持ち悪っ、それぜってぇ危ねぇ奴じゃん。」  跳び箱に座っていた生徒がゲラゲラと笑いながら、バスケットボールを指で器用に回している。 倉庫の扉を塞ぐ生徒は、時折隙間から外を除いては教師や他の生徒が来るかどうかを見張りしていた。 「犯罪者に育てられてんだろ?じゃあお前も将来犯罪者になるんじゃね?」 「だったら今のうちに俺たちで退治しておこうぜ!」  千春に向かってバスケットボールが投げられる。隙間なく空気が入ったバスケットボールは投げやすく、固いものだった。 千春が腕で顔面を覆い隠すよりも早く、ボールは彼の鼻に直撃していた。周りの生徒たちが同じように投げたボールが腕や膝、腹に直撃する。 しかし千春は悲鳴一つあげず、ただただ呻くだけだった。 やがて床にポタリと何かが落ちる。それは赤黒く、小さな窓から差し込む光に照らされていた。 「おい、流石にヤベェぞ秋人。」  手を退けた千春の鼻から血が垂れ落ちている。生徒たちは血を見た瞬間、僅かな罪悪感に駆られたのかぎこちなく苦笑していた。 そして、ちょうど良いタイミングで鳴り響いたチャイムの音に、彼らは安堵したかのように笑いながら体育倉庫から出て行った。 一人残された千春は腕で鼻血を拭う。擦れた血から強烈な鉄臭さが漂い、体育倉庫のカビ臭さと混ざっていた。 痛みは感じていたが、悲しくはなかった。血を拭い終わった彼はすっかり静かになった体育館へと足を進めた。
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