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「…どこに行くんですか?」  千春は目の前まで来た秋也を見上げる。 十七歳とは思えない高身長は、いつ見ても威圧を感じるものだった。 「……夕飯、買い忘れた。」 「夕飯なら俺が用意してあります。」  すかさずそう返す秋也に、千春は顔を顰める。 帰りたくないから遠くへ行く。そんなことを言える状況ではなかった。 とにかくここから離れたかった千春は、適当に思いついた言い訳を再び口走る。 「…散歩行ってくるだけだ。」  秋也に背を向け、彼は再びアパートの廊下を歩き始めた。 しかしその腕を後方から握られる。振り返れば、やはりそこには変わらぬ表情の秋也がいた。 「あなたは嘘が下手です。」 「…はぁ?」 「俺の目を見ようとしない、それから…手をポケットに隠します。」  全てを見透かされた気分になった千春は、ポケットに突っ込んでいた手を強く握った。 嘘をついていることさえわかってしまうならば、どうすれば良いか。考える暇もなく秋也は口を開く。 「何かあったんですか?」  夜風の冷たさなど感じていないのか、スウェットシャツ一枚の秋也は淡々としていた。寒さに震えることも、温もりを求めることもなかった。 千春はそんな彼の様子が異質に見えてしまい、思わず顔を背ける。 「何もねぇよ。」 「いつもはこんなに遅くないですよ、帰り。買い物もしていないじゃないですか。」 「うるせぇな…別に何もねぇって。」  千春は彼の腕を振りほどこうとしたが、握る力は一向に強まってゆく。 無理やり足を前に出そうとするも、彼の力には敵わない。痺れを切らした千春は、冷たく鋭い視線を彼に向けた。 「もういいから離せよ。俺少し散歩に…」  言い終わる前に、千春の体は後方へ引っ張られた。 大きな腕が彼の体を抱き寄せる。全身にじんわりと暖かさが伝わった。 「……何だよ。」 「また一人で抱え込むつもりですか?」  千春を抱き寄せた秋也は物憂げな瞳を伏せ呟いた。 優しい声色だったが、千春を抱く腕の力は強く、決して離さないという意思を感じるものであった。
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