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「今のあなたはまるで死人だ。生きているはずなのに、中身は死んでいる。」  千春は額から伝わる体温に暖かさを感じると同時に、どこか冷たさも感じていた。 秋也の暖かな体温の中に自身の冷たい体温が混ざり合い、彼の体温を感じれば感じるほど、自身の内にある死人のように冷たい感情が邪魔しているようだ。 生者の暖かさと死者の冷たさ。それはまるで陰陽のように対照的なものだ。 「覚えていますか?三ヶ月前のこと。俺があなたにここへ連れてこられた日のことです。」  滲んだ血が発する鉄の香りが微かに漂う。 千春は秋也の言葉に何かを思い出すかのように顔を上げたが、またすぐに俯いた。 三ヶ月前、秋也が行方不明になった日。それは即ち、千春がこの部屋へ彼を連れてきた日だった。その時の記憶が千春の脳内にぼんやりと浮かび上がったが、まるで本能が蓋をするようにすぐに消えてしまった。 本能が思い出したくないと拒絶していたのだ。 「あの時みたいに俺に夢中になってほしいんです。この世界のことなんか忘れて、俺だけに…。」  鼻孔を通る血の香り。秋也の両手が千春の頬を包み、唇に柔らかな感触が伝わった。 それは紛れもなく彼の唇だった。艶やかな秋也の唇が、乾ききった千春の唇へ当てられる。 夜の帳が下りた暗い部屋の中。窓の外の明かりだけが頼りな部屋の中。薄らと見える輪郭を頼りに、秋也は接吻を果たした。 甘くもない、レモンの味など尚更しない。強いて言うのなら、鼻の奥に残る鉄臭さ。しかし千春は彼を押し退けることも、口を離すこともしなかった。 全てを委ねるように、ただ唇に伝わる感触に目を伏せていた。  まるで嵐が過ぎ去った後の空のように。彼の感情は落ち着きを取り戻していた。 それがキスによるものなのか、はたまた血の匂いが彼を落ち着かせたのか。それは彼自身もわからないことだった。 (…ごめん、五十嵐。お前の弟は、俺が変えてしまったのかもしれない。)  唇が離れ、今度は首筋にそれが当てられる。やがて力の抜けた千春の体はソファへ沈み、それに続くように秋也も彼の上へ体を屈めた。 大きく沈み、軋んだソファの上で、二人は身を寄せ合った。 求愛と諦観。愛を伝えるように体を暴く者と、歪んだ愛に思考を停止する者。  何かに縋るように闇へと伸ばされた千春の手は、秋也によってすかさず絡め取られた。
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