大道芸人への道 2

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 …葉敬が、来日する前に、やってやる…  …葉敬が、来日する前に、ケリをつけてやる…  私は、そう、思った…  私は、そう、決意した…  このバニラを、亡き者にしてやる…  と、までは、言わんが、バニラに一泡吹かせてやると、思った…  二度と、この矢田トモコ様に、立ち向かうことのないように、バニラに一泡吹かせてやらねば、ならんと、気付いた…  が、  問題は、なにをするか、だ…  私は、身長、159㎝…  バカ、バニラは、身長180㎝…  まともに、やりあっても、到底、私に勝ち目は、ない…  絶対に、ない…  私は、考えた…  が、  元々、私は、正々堂々と、バニラとやり合うつもりなど、さらさらない…  私は、このバニラに、体格でも、ルックスでも、足元にも、及ばない…  それは、痛いほど、わかっている…  が、  頭脳は、勝っている…  明らかに勝っている…  そのことには、自信がある…  なにしろ、私は、あのソニーが、作った大学を出ている…  天下のソニーが作った大学を出ている…  それに、比べ、このバカ、バニラは、中卒か、高卒に、過ぎん…  私は、学歴で、他人を判断することは、あまりないが、こと、このバニラに至っては、その常識は、あてはまらん…  とにかく、当てはまらんのだ!…  私は、思った…  心の底から、思った…  そして、その思いが、カラダに出たのだろう…  私は、いつのまにか、固く拳を握り締めていた…  グッと、固く、拳を握り締めていた…  すると、  「…どうしたの? …矢田ちゃん、そんな怖い顔をして…」  と、バニラの娘のマリアが、聞いて来た…  私は、驚いた…  マリアが、この場にいることを、すっかり忘れていたのだ…  バニラのいるところに、マリアありではないが、このバニラが、プライベートで、いるときは、マリアが、いっしょに、いるときが、多い…  当たり前だが、二人は、母子だからだ…  そして、バニラは、普段、忙しい…  世界的にも、有名なトップモデルだから、世界を股にかけて、活躍しているからだ…  だから、プライベートでは、少しでも、このマリアといっしょにいる…  普段は、世界中を駆け巡っているので、マリアといっしょに、いられないからだ…  マリアは、まだ3歳…  普段は、日本のセレブの保育園に通っている…  だから、会えない…  本当は、このバニラも、娘のマリアを連れて、仕事に行きたいだろうが、それは、できない…  なぜなら、このバニラは、まだ21歳…  世間では、独身で、通っている…  だから、それが、バレたら、困る…  自分の人気に直結するからだ…  これは、例えば、日本で、21歳のカワイイ女のコが、実は、3歳の娘の母親であると、週刊誌にすっぱ抜かれたとする…  それでは、人気を維持することは、できない…  今の時代、アイドルの女のコに、処女性を求めているとは、思えないが、それでも、子供がいるというのとは、天地がひっくり返るほどの差に違いない…  さすがに、アイドルが、処女でなくても、ファンが受け入れるが、子供がいるのでは、受け入れられない…  アイドルとしては、受け入れられない…  そういうことだ…  私が、そう思っていると、  「…矢田ちゃん、そんな怖い顔をして…」  と、再び、マリアが、私に言った…  私は、反射的に、  「…なんでもない…なんでもないさ…」  と、言った…  バニラは嫌いだが、このマリアは、私になついている…  この矢田になついている…  この光景を見た、リンダ=ヤンが、  「…ホント、マリアは、お姉さんが、好きなのね…」  と、口を出した…  すると、マリアが、それを受けて、  「…ウン…矢田ちゃんが好き…」  と、すぐに、返答した…  「…だって、面白いんだもの…」  …なに? …面白いだと?…  …一体、どういう意味だ?…  「…矢田ちゃんと、いっしょにいると、すごく楽しい…」  マリアが続ける…  が、  私は、マリアの言葉が、気になった…  一体、この矢田のどこが、面白いと言うんだ?…  私は、全然、面白くなんてない…  だから、  「…マリア…私が、面白いとは、どういうことだ?…」  と、聞いた…  聞かずには、いれんかった…  「…矢田ちゃんは、面白い…テレビで、お笑い芸人を見るより、ずっと、面白い…」  マリアが、あっけらかんと、言った…  私は、マリアのその言葉を許すわけには、いかんかった…  一体、この矢田のどこが、面白いというんだ?  一体、この矢田のどこが、お笑い芸人より、面白いと、言うんだ?  私は、それを、聞きたかった…  「…一体、私のどこが、お笑い芸人よりも、面白いというのさ?…」  私が、怒りを押し殺して、マリアに、聞いた…  すると、実にあっけなく、  「…だって、テレビのお笑い芸人は、ウケを狙って、わざと、面白いことを、言うけど、矢田ちゃんは、天然だから…」  と、言った…  「…天然だと?…」  「…ウン…天然…矢田ちゃんは、ウケを狙ってない…でも、面白い…」  「…なんだと?…」  この矢田のことを、まさか、そんなふうに、見ていたとは?…  親が親なら、子も子も、だ…  私は、思った…  これまで、この矢田は、さんざん、このマリアを可愛がってきた…  面倒を見てきた…  が、  その結果が、コレだった…  コレだったのだ!…  もはや、遠慮は、無用…  この母子には、手加減無用!…  二人そろって、地獄に堕ちてもらうしかない…  天罰を受けて、もらうしかない…  私は、思った…  私は、  「…許さん!…」  と、言おうと思った…  が、  その矢先に、バニラが、  「…お姉さん…マリアのことを、よろしくお願いします…」  と、まるで、私に土下座せんばかりに、頼み込んで来た…  「…お姉さんだけが、頼りです…」  と、それまでとは、打って変わって、塩らしい態度で、私に接した…  私は、今さらながら、このバニラにとって、いかに、このマリアが、大切か、思った…  いかに、重要視しているか、再認識した…  このバニラにとって、娘のマリアは、おおげさに言えば、自分の命よりも、大切…  バニラにとっては、宝物に違いないからだ…  それを、あらためて、再認識した…  だから、  「…バニラ…だったら、さっきの、私に対する態度は、なんだ?…」  と、聞いてやった…  「…態度?…」  「…そうさ…さんざん、私をコケにするような態度をとって、私に、自分の娘の面倒を見てくれなんて、どういう了見なのさ?…」  「…それは…」  「…それは、じゃないさ!…」  私は、私の細い目をさらに、細くして、言った…  「…他人様のことを、さんざん、悪口を言っておいて、面倒を見てくれも、ないさ…」  私は、怒った…  すると、バニラが、黙った…  「…」  と、なにも、言わんかった…  ただ、ジッと、その青い目で、私を見た…  私は、美しいと、思った…  このバニラが、美しいと、心底、思った…  同時に、怖かった…  こんなことを、言うと、おかしいかも、しれんが、怖かった…  それは、なぜか?  それは、私が、日本人だから…  私が、アジア人だから…  だから、欧米系の青い目に接したことが、あまりない…  まして、このバニラは、美人…  まるで、彫刻で、刻んだように、彫りの深い顔立ちだ…  そんな美人のバニラが、無言で、その青い目で、私を睨むと、なんだか、怖かった…  私が、このバニラに謝罪を要求しているにも、かかわらず、なんだか、怖かったのだ…  だから、これ以上、なにを、どう言っていいか、わからんかった…  私も、バニラ同様、ジッと、バニラを見たまま、黙った…  互いに、ジッと、睨み合った…  私の細い、黒い目と、バニラの大きく、青い目が、ぶつかった…  激しくぶつかった…  もはや、互いの衝突は避けれんかった…  両雄並び立たず…  この世界で、この矢田と、バニラは、互いに、同じ場所に立つことは、できんかった…  つまりは、宿敵だった…  私は、それを、たった今、確信した…  心の底から、確信したのだ…  もはや、互いの激突は、避けれんかった…  と、そのときだ…  「…二人とも、もう、いい加減にしたら…」  と、いうリンダの声がかかった…  リンダ=ヤンの声が、かかった…  私とバニラは、その声で、二人とも、リンダを見た…  リンダ=ヤンを見た…  「…お姉さんも、年上なんだから、バニラを許してやったら…」  「…」  「…バニラも…いくら、お姉さんと親しいからって、お姉さんに甘えちゃ、ダメ…言っていいことと、悪いことがあるの…」  これには、頭に来た…  「…一体、私が、どこが、このバニラと親しいというのさ…」  私は、聞いた…  聞かずには、いられんかった…  「…だって、親しいじゃない…ケンカするほど、仲がいいっていうし…」  「…ふざけてもらっては、困るさ…私は、バニラと仲良くなんて、ないさ…」  私は、大声で、怒鳴った…  すると、いきなり、マリアが、  「…ゴメンナサイ…矢田ちゃん、ママと仲良くして…」  と、私に懇願した…  だが、私は、マリアの願いをあっさりと、はねつけた…  「…それは、ダメさ…」  「…どうして? …どうして、ダメなの?…」  「…バニラが、私に謝らんからさ…」  「…ママが、謝らないから…」  「…そうさ…」  私は、言ってやった…  途端に、バニラが、  「…スイマセン…お姉さん…」  と、私の前で、土下座した…  これには、私も、驚いた…  「…本当に、申し訳ありません…」  私の前で、床に、額をつけて、土下座した…  が、  そのことが、かえって、私の不審を招いた…  このバカ、バニラが、形だけとは、いえ、この矢田に対して、ここまで、するわけがない…  とっさに、私の心に閃いた…  なにか、ある!  絶対、なにか、ある!  私の大きな胸に、かすかな不安が宿った…                <続く>
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