落とし物には気を付けて

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「ほら、また」  中年女性はフンを片付ける素振りもなく、犬を連れてそそくさとその場を離れて行った。 「散歩の時間が僕達とかぶるのでよく見るんです」 「あっ、そろそろ行かなきゃ」 「呼び止めてごめんね」 「うんこ踏まないように気をつけて下さい。そっちも危ないです」  少年達がロータリー沿いの生垣を指差して、去って行った。  頭上には鳥、足元には犬のフン。誰が言い出したのか、笑い事で済ませて良いのだろうか。 「きゃあ!」  後ろで女性が尻餅ついていた。 「大丈夫ですか?」 「いたた」  駆け寄ると、女性がパンプスをはいた足首をさすっていた。泥で汚れたタイルは滑りやすい。 「ベンチに座りましょうか」 「すみません。ありがとうございます」  女性を支えてすぐ側のベンチへ移動する。 「やだ、まさかこれ……」  女性が脱いだパンプスを見て声をひそめた。 「ウエットティッシュありますよ。使いますか」  駅前で配っていたウエットティッシュは存外に役に立つ。 「ありがとうございます。本当、最悪……」  少年達が危険だと言った場所に目を走らせると、空の缶詰が置いてあるのに気づく。 「野良猫いるんだ」
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