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「餌を撒き散らしたやつはあんたか」
「違います! 私はただの通りすがりの者で……」
男の後ろから仲間がやって来て私を取り囲んだ。
「ここにサクラという猫がいて、飼い猫かもしれないって見ていただけなんです」
「何だ。あんた、よそモンか」
「え?」
「サクラはこの街の地域猫だ。この街で知らぬものはいないし、彼女はグルメだから置きっぱなしの餌など食べるわけがない!」
サクラの顔がプリントされたTシャツを来た若い男が鼻息荒く叫び、同じTシャツ姿の女性が傍で困った様な顔で立っている。
「はあ、そうなんですか。でも、餌をやったのは私じゃないです」
「田中君、落ち着いて。私達は清掃のボランティアなの。怖がらせてごめんなさいね」
年配の女性が割って入って来た。猫プリントTシャツの男は田中というらしい。
「い、いえ」
「餌やりじゃなければ何をやってるんだ?」
初老男性が訝し気に言う。
「えっと、住む場所を探してまして」
「あら、そうなの。うち、不動産屋なの。これ名刺!」
名刺には相川不動産と書いてあった。
「ぜひ、いらしてね」
よく見るとエプロンの胸の辺りに相川不動産と刺繍が入っていた。
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