綺麗な男のふるさとのこと

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 ……波鶴ちゃん? なんでおれのベルト外そうとしてるの? 「……こういうベルトを外すのは難しいな」 「え? もしかしてベルトより帯の方が慣れてるの?」  あっ、せっかくえっちな雰囲気だったのに、好奇心が勝っちゃった〜……。 「まあそうだな。言い忘れたが私は600年くらい生きている」 「おっ……。600年。そっか。すごいね。何時代生まれ?」  想像をものすごく超えてきたから、めちゃくちゃ動揺して返事した。 「南北朝だったか……。室町だったか……。動乱の時代だ。何年だっただろうか。免許証を見ればわかる」 「免許証に正確に書いてるの!? 逆にどうやって特定したの!?」 「術使いの身分だと、記録は残る。と言っても私は農民から拾われた身なので、正確な生まれ年は不明だが。拾ったときに5歳くらいだったと記録にあるから、それに従った」 「なんかすげーな」  情報量が多いので、とりあえず雑に感想を述べておく。 「え、見たい。免許証見せてよ」 「は? まだ折り返し地点だというのに……」 「ちょっ……。一旦ピロートーク。一旦ピロートークで波鶴ちゃんの人生を知ってから、そこからじっくりと……」  さすがに、ちょっと免許証は今すぐ見たくない!? 「ははあ。まあいい。一旦な。嬉しかった」  波鶴ちゃん、全裸で部屋を出ていくついでに、おれの額にちゅ、とキスしてくれた。  嬉しかったって、言ってくれた……。 「ほら。1375年。南北朝時代だ」  戻ってきた波鶴ちゃんが免許証を見せてくれて、マジで1375年って書いてあるから吹き出してしまう。不老の人の免許証がどうなってるかなんて、考えたことなかったわ!! 「当時の足利義満が……いくつだったんだ?」 「足利義満とほぼタメ!?」 「20ほど上だった気がするが。ほら。義満が1358年生まれか。17歳ほど上だ」 「会ったの!?」 「私は殿上(てんじょう)に参上するほどの身分ではなかった。つまり、義満の御殿にも入れないということだ」 「ははあ。身分社会だ。え? 波鶴ちゃんは何歳?」 「あー……」  スマホの電卓で計算してんの見て、フフッて笑ってしまう。 「648歳だが、誕生月を6月ということにしているので……今は5月だろう? チッ……面倒だから約650歳だ。それ以上正確に算出しても仕方ない」  爆笑。自分の年齢が面倒で舌打ちする人、初めて見たわ。おいでーって布団に招き入れて、よしよししてあげる。 「誕生日は? 6月15日は確定なの?」 「いや、適当だ。生まれたときに雨が降り続いていたから、梅雨ということにした」 「え〜? 生まれたときの記憶があるの?」  波鶴ちゃんはぱっと目を見開いて、おれの顔を見て、それからほんの一瞬、波鶴ちゃんの目を哀しみがよぎった、気がした。
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