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綺麗な夢、の裏はいつだってもどかしい
一回目のスヌーズで、目が覚めた。隣を見て……え? いない。
夢? 全部夢? めちゃくちゃ綺麗な夢? 一生あの夢の中で暮らしたいタイプの夢?
「おはよう。借りているぞ」
ダイニングのソファに、波鶴ちゃんいた!! 脚を組んでだらっと座ってる。もうたまらなくて抱きつく。キスしたい。めちゃくちゃ舌入れたい。歯磨かないとだめかな〜!!
口臭が気になる三十路男なのでディープキスは諦め、波鶴ちゃんの頬に、額に、首筋に、うすーい喉仏に、キスしまくる。夢かと思っちゃったじゃん……。
最後に手を取って、うやうやしく甲にくちづける。あ、ひざまずくのが先だっけ? 忘れたわ。まいっか。
「どうした? こういう風習の家庭に育ったのか?」
「そそ。毎朝これだから」
「すごいな」
テキトーな顔で笑う波鶴ちゃん、今朝もすっごくかわいーね!!
「あれ、借りてるって?」
「ダンベル」
「おっ……。浮くんだ」
隅に転がしといたダンベルを術で浮かせて遊んでるの? あれ何キロ?
「おれのキスの嵐の間も浮いてたの?」
「ああ。その程度なら」
「おお……。かっけーね」
「何時に出るんだ」
ただ浮いてたダンベルが、くるくる回り出す。波鶴ちゃんはソファでだらっとしたまま。
「何時に? ああ、時間ね。えー……」
「私は今日は休みだ。何時でも構わない」
えっ、休み!? おれもワンチャン有休……いや〜今の仕事の残り具合からして厳しい! つらい!
「えっとね、どうしよ、ごはん自分で食べる?」
「そうだな。冷蔵庫を覗かせてもらったが何もなかった」
「あ、そうなのよ〜」
おいおい、食材入れといたら波鶴ちゃんお手製の朝食が用意されていたのでは!? クソ……。今日からちゃんと生活しよう。だらけ切ったオッサンからは卒業だ。
「じゃあ、35分後!」
超遅刻ギリギリの電車に、ギリギリ乗れるかだけど、波鶴ちゃんと一緒にいたい! なんならちょっとイチャイチャまでいきたいじゃん!
ダッシュで歯を磨いて、髪は結ぶだけだし。ヒゲも生やしときゃどこまでが生やしてるヒゲでどこからが無精ヒゲかなんてわかんないし。あからさまにはみ出てるやつだけ剃る。てか波鶴ちゃんヒゲ薄いな? 生えないの? 脱毛してるの?
会社用の服なんて適当に。洗濯の山から掴み取ったものに着替えて、ダイニングに戻ると、ダンベルはまだ宙に浮いていた。
「どこに置けばいい?」
「ん。そそ、その隅っこならどこでも」
重い鉄の塊が音もなく着地して、やっぱすげーな、おれのいい男。
「すげ〜〜〜」
波鶴ちゃんの隣に座って、頭をがしがし撫で回す。
「かっこいい!」
ひしと抱きしめる。
「ヒゲ薄いの? 脱毛?」
ハリのある頬に手のひらを当てて、微妙にヒゲあるかも、と先に気づいた。
「薄くて伸びるのが遅い。微妙にあるだろう」
「微妙にあったわ」
それでもチクチクってほどじゃない、するりとした若い肌。撫でてるだけで気持ちいい。
「伸ばしていた時期もあるんだが、元が薄いと貫禄が出ないんだな。男には見られるんだがいかんせん……」
しゃべってるけど、おれが顔を近づけると黙っちゃってさ。キス待ちなんでしょ?
ちゅ、ちゅ、って。理性飛ばないギリギリで、あと25分、ちゅーしてよっか。
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