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桃が嫌いなら何がすきなの
わ、すげー美人。
マジで顔のいい人間を見ると、そんな感想しか出てこないもんだね〜。入学式。花のDKライフのスタート。初っ端から、つまんねー感想で始まっちゃったな〜……。
もうちょっと実のある感想を言いたい。
こんな地方都市に、こんなパリコレ歩ける美形が住んでることある?
これですね。
入学式の座席は出席番号順。ひとつ後ろの列だから、おれが永山でしょ? ナ行かハ行の名字かな。
美人さん。まずすっごく色白。それでつやっつやの黒髪を真ん中で分けて、肩の下までストンと伸ばしてる。白と黒のコントラストがすごいよー。
いわゆるアイドルや女優みたいな美人じゃなくて。目は一重か奥二重? 切れ長でツリ目気味で、白目と黒目のコントラストもはっきりして、涼しいけどキリッと印象的な目元。鼻筋は細くスッと通って。
そこまでは和風美人さんだけど、唇はぽってりした感じがあって。モデルね! モデル。本気でパリコレ歩いてそうー!
もう一回言いたい。こんなつまんねぇ地方都市に、こんなパリコレ歩ける美形が住んでること、ある??
ここまでが、入学式前にチラ見した分の感想。
で、式が終わってぞろぞろとクラスに戻るとき、気づいた。制服はスラックスなんだー。
本気でなんもない田舎の学校だけど、ジェンダーレス制服は導入されたので、自由なんだよね。スカートは履かない女の子? 男? 女の子として接すればいい、身体は男の女の子? うーん。まあ、深く考えるのもそれはそれで違うかー。
で、隣の席でした。おれが永山。美形さんの名字は野矢。いい感じにナ行が連続して、隣になっちゃいました。やったー!
「よろしくー。永山葉介です。めっちゃ山の方の中学」
「よろしく。野矢波鶴史という」
あっ、声は高い。ギリ男じゃなさそう。で、話し方は侍。めっちゃ変だしめっちゃ男。……とか考えるのも違うか!!
「え、名前の漢字なんだっけ?」
名簿チラッと見て、なんか読めないけどおめでたい漢字が並んでる! って思ったんだよね〜?
「ほら。波に鶴に、歴史の史で、はづみ」
「『はづし』じゃないんだ」
「波に鶴の時点でキラキラネームは確定だから、読めない漢字でよしとしたそうだ」
「まあみんなそうよね。おめでたい感じの名前だねー」
「古風だろう。野矢と呼んでくれ。永山でいいか?」
「ん。永山で」
名字呼び派ね。了解です。さらっと呼んでもらえて嬉しい。話し方もめっちゃ古風だなー!?
「下の名前、葉介で、葉っぱの葉なんだけど、八月の意味の葉月から取ってるらしい。わ、微妙すぎる被りの話したわ〜」
「いや、おもしろいな。私の命名の候補に、実際『はづき』もあったらしいぞ。八月生まれでないので、やめたそうだが」
好奇心を刺激された顔で、普通におもしろがってくれた。キリッと和風美人なのに、侍の話し方なのに、表情はすごい親しみやすい。こりゃーモテますわ。ほら、斜め前の、なんだっけ、野茂くんも話しかけるタイミングを狙ってるし、なんならおれに「代われよ」ってオーラで圧をかけてきてるし。
才色兼備。入学して最初の実力テストで全員が思い知った。
試験時間は半分以上残ってるのに、突っ伏して寝てる野矢。諦めるの早!? もう試合終了ですか!? と思ったら学年一位だったし。
先生たちも、こいつはほっといても自分で勉強するってわかってるんだろうね。野矢が授業中ぼんやりしてたり、外を見て「わー、鳥さんだー」って顔をしてたり、堂々と内職してたり、寝てたりしても何も言わない。授業中にスマホやゲームは触らない主義みたいで、波風も立たない。
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