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バスを待ちながら気づいた。さっきのやつ、男子高校生の性癖スタンプラリーじゃない。
おれが、野矢を好きになっちゃうまでに押されてきた、スタンプのリスト。
でも、おれだけの特別なスタンプは押されてない。野矢は、誰にでも水かきまで日焼け止めを塗ってやるでしょ。
ひとつあった。おれだから教えてくれたこと。
4月半ば、初めてサシで話したとき。学校の雑木林のベンチだった。野矢ときたら、それまで大した絡みもなかったおれに、いきなり失恋報告してきてさ。深刻なやつじゃない。ケラケラ笑ってて、変なやつって思った。変人くんだけど、居心地はいいってね。
そのあと野矢は、聞かれると「東京に好きな人がいる」って嘘をついてる。「好きな人はいない」って言っちゃったら、モテてモテて仕方ないから面倒なんだろうね。
でも、その秘密を知ってるのは別におれだけじゃないでしょ。おれと野矢は別のグループで動くし、おれより仲いい奴がいて、そいつには打ち明けてるんだろうし。
失恋報告されたとき、野矢の軽いノリの中にも、やっぱダメージ残ってるのはわかった。そういう弱気な表情を、野矢を狙ってる奴らに見られるとまずい。余計な感情を掻き立てるから。
だから興味なさそうなおれに話したんだろうね。おれはそのとき、そう解釈したのよ。
だとすると。
ふたりの秘密が、野矢の「特別」がもっと欲しいなら、興味ない素振りを貫かなきゃいけない。
でも、特別スタンプをいくら集めても、野矢の「特別な誰かさん」に昇格するルールとか、別にないんでしょ?
興味ないフリして、いっぱいになったってどこへも辿り着かないラリーをゴールして。
埋まったからもうやめてくれ、って言いたいのに言えなくて。
めちゃくちゃにスタンプを押されて、全部灼き付いて。
それで一年回ってクラス分け。廊下で見かけたら声かけるくらいの距離感になって、そのまま卒業して、おしまい。
おれ、そのとき、焼き印だらけのスタンプカードを捨てられるかな。それって、捨てられるのかな。もう身体のどっかに張り付いて、剥がせなくなったり、しそうなやつじゃん。
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