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おれの交友関係を見渡したら、最もおモテになるのは野矢でした。本人に相談に乗ってもらおう。
いつもより1時間早いバスで高校に着いて、自習スペースに野矢を見つけた。
「おはよ。ね、いま、おれのお悩み相談に乗れるタイミング?」
小声で訊くときだって、顔近づけすぎたかなって、もうドギマギです。野矢は快く、おしゃべりOKな廊下のベンチに移動してくれた。いい奴だなー。
早朝の校舎はがらんとして、いやに音が響く感じがした。恋愛相談するにはちょっと恥ずかしいくらいに。
「ね、野矢はモテるじゃん」
「ああ」
野矢も小声で話すから、いつもよりすべやかな声質に聞こえて、たまんない。胸の高鳴りが止まらない。既にこの相談を後悔し始めてるけど、続けるしかない。
「野矢ほどじゃないけど、おれもモテ始めた気がする」
「おや。気づいたか」
野矢は可笑しそうに少し眉を上げる。嫉妬なんてしてないってことだよね。モヤモヤもしてなくて、野矢のおれに対する恋愛感情は今のところゼロ。
まあ、現状を把握するのは大事だし。野矢ルートを諦める要素にもなるし。
「デートに誘われちゃった。保留にしてる。野矢は興味ない子にデート誘われたら……突っぱねるのか」
「そうだな」
当たり前だ、という顔。今おれが誘っても突っぱねますよ、という顔……というのは考えすぎ。
「その理由を聞きにきた。誰でもよくはないの? 『恋人がいる状態』というステータスに憧れはないのー?」
野矢を好きになってから、安易に「彼女」とか言えなくなった。「恋人」って言う。特に本人の前では。彼氏になってほしい男の前では。
「なぜ、か。『恋人がいる状態』というステータス、か……」
しばし目線を宙に泳がせる野矢。
まずい。野矢が「恋人がいる状態」に興味を持ち始めてしまった。おれの迂闊な発言のせいで。その気になれば選び放題の野矢が!
「デートを重ねてから、魅力に気づくこともあるのだろうか。なら突っぱねるのは得策ではないな」
まずい! これはほんとにまずいですよ!!
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