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「ね。ちょっと静寂の時間をもらっていい?」
重々しく告げると、野矢は返事もせず、おれの表情を汲み取って真剣な顔で沈黙してくれた。
「……来た。野矢くん。きみに予言を授けよう」
「ほう」
真面目な顔で聞いてくれる。いい奴すぎる。好き。
「お主はじきに新しい恋に落ちるであろう」
「ほほう」
「相手は意外と身近な存在であろうな」
「なるほど? 続けてみろ」
「えーと……お主はその相手を、気安い友人と思っておる」
「なるほどな。しかし私は友人が多いぞ」
マジでそうなのよ。本当にライバルが多くて多くて……!
「思いもよらぬ友人やもしれぬ」
「ふーん。何がきっかけの恋なんだ」
「……わかんない。ここまで降ってきた。これで終わり」
重々しい口調もここまで。
「天啓か」
「そそ。天啓」
「よく予言が降りてくるのか?」
「んー、たまにね。年に2回くらい」
「当たるのか」
「結構当たる」
適当なことばっか言う。
「年に2回の当たる予言を私に使ってはもったいないな。ありがとう」
「いや、テーマはおれが決められるわけじゃないから。たまたま野矢に関する予言が降ってきた」
「なるほど。おもしろい。当たっても外れても報告しよう。当たったら礼をする」
野矢、信じてないけど真顔で付き合ってくれるから本当に好き。いや、信じてるのかもしれない。それはそれで、素直でまっすぐでいい子で美しくて好き!
野矢が好きだ! だから、おれ以外の奴とのルートを完封しないと!!
「あ! 待って! まとめが、重要ポイントが赤字で降ってきた!!」
また適当を言う。
「テキスト形式なんだな」
さすがに野矢も半笑いで、ああ。おれ、野矢の笑ってるとこが好きだ。
「笑わせないでよ〜! 大事なとこだからね? であるから、お主はその恋に落ちるまで、興味のない相手と交際してはならぬ!」
「ほほう。しっかりとしたまとめが降ってきたな。そういうことか」
「うん。そういうことっぽい」
「先の見通しが立ってなによりだ。ありがとう。永山のことも聞けないのか? ついでに。興味のないお誘いを承諾すべきか否か」
「おれと天の声はそういう関係じゃ……あ! 降ってきた! ゴシック体で『否』って!」
「PCフォントなのか? 手書きかとばかり」
「天の声もフリック入力が楽なんでしょ」
堪えきれずに、おれの方が先に笑っちゃう。がらんとしたスペースに笑い声が響いて、慌ててひそひそ笑いにする。
野矢もくつくつ笑ってて。ああ。おれは野矢が笑ってるとこを見てたい。できるだけ長く。長くっていうのは、高校生が想像できる限りの未来、その全部。
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