まだ遠いきみの近くで話す

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まだ遠いきみの近くで話す

 梅雨明け間際になって、この嵐。垂れ込めた雲がびかっ!!と光ってから雷鳴が聞こえるまで、1秒。ついさっきまでは3秒かかってたのに。教室中が、なんとなく「近いな……」「近くに落ちるかな……」なんてそわそわし始める。  野矢は相変わらず授業を聞いてない。聞かなくても学年1位だから、先生方も何も言わない。  そういう校風。しょぼい地方都市の進学校。進学実績だって、県トップ校に比べれば、ぼちぼちとしたもの。上を目指せとケツを叩かれるわけでもない。そんなぬるま湯みたいなところ。  外を眺める野矢の表情は見えない。でも、授業中ずーっと雷と嵐を眺めるって、何かあったんだろうね。  けど、おれは野矢のお悩みを知らないし、野矢のお悩み相談担当ではない。  おれは野矢が好きで、野矢はそれに気づいてるかもしれない。おれと野矢はつるんで動くわけじゃない。どことなく気が合う感じはするから、機会があれば話す程度。おれは野矢の「とりわけ仲いい友達リスト」には入ってない。  入ってないけど好き。入ってないけど野矢のハートを撃ち抜きたい。そのための行動は、何も起こしていない。  4限終わって、いつものグループで飯食うかーってなってたのに、野矢がまっすぐおれに向かってくるから心臓が跳ねた。小柄だけど背筋は伸びて、所作のひとつひとつがどことなく端正で、そんな小さなことだけでもおれの心臓はこんな感じなんだよ……。 「永山。予言のこと。話したい」  でかい雷が落ちた。  ヒュッておれが息を飲んだのも、雷のせいってごまかせるかな。そんな、ものすごく近い落雷だった。  予言。「野矢。お主は近々恋に落ちるであろう」なんて、おれの最悪な予言ごっこ。野矢に「当たったら礼をしよう」って言われて、そこでおしまいになった話。  当たったんだ。恋に落ちたんだ。おれ以外の誰かさんだったんだ。やっぱりおれと野矢は、全然近しい間柄じゃなかった、当たり前だけど。
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