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中学では、美術館デートを楽しめる東京の女の子が好きで、次に図書室の20代後半の司書さんが好きで。おれじゃだめなんだろうな。野矢の恋人になれるのはおれじゃない。あと、野矢を助けられるのもおれじゃない。
「ままならないって、もっと言っていいと思うよ。色々押し付けてくる大人にキレていいと思うよ。子ども扱いされるんだったら、大人に、自分は子どもなんだからって駄々こねていいと思うよ。おれが言ってる『大人』は、担任とか、スクールカウンセラーとかだけど。子ども扱いされることに困ってんのに、大人になることを自分に課さなくていいと思うよ。
いや、おれは課してない。ばあちゃんにも顧問にも担任にも近所のオバチャンにも甘えて甘えて、うまいもん作ってもらってお菓子分けてもらって、ってさー。野矢そういうの苦手そう」
しゃべりすぎたな、って思って、ばあちゃんの話とかする。アドバイス、難しい。いつも言いたいことを言うだけになる。
「……甘える、は、苦手、だなぁ」
あ。苦笑してくれた。そのとき、野矢の身体にちょっとだけ、あたたかい空気が入った感じがした。
「由佳ちゃんに話したら? めっちゃ優しいよ。おれ由佳ちゃん大好き」
全校生徒から「ちゃん」呼びされてる、本名は由佳子さんという家庭科のおばあちゃん先生。おれはおばあちゃんっ子だから、オバチャンとかおばあちゃんとか、すぐ甘えちゃうのよ。
「由佳ちゃんはおれの話も聞いてくれるよ。野矢は家庭科完璧だから覚えられてるし、話聞いてくれるよ」
「へえ。由佳ちゃんに何か相談する発想がなかった」
野矢も教員をあだ名で呼ぶ茶目っけはあるんだよね。なのに大人ぶらなくていいんじゃないのー、とか、おれはテキトーな人間なので思っちゃう。
「相談とか思わなくていいのよ。雑談よ。授業準備しながらおしゃべりしてくれるよー。喜ぶよ。たまにお茶も出してくれる」
へえ、って野矢は少しだけ和らいだ顔をしてくれた。
「おれが野矢のしっかりしてるとこ、ちょっとだけもらってったらちょうどいいのにねー」
「……そうなのかもな。きみの甘え上手を、私も少しもらいたい気がする」
……なんか、キュンとするセリフだった。キュンとしてる場合じゃないのに。あげられるもんは全部あげたいと思ってる。おれ自身をもらってほしい。あ、野矢が欲しいのは「甘え上手」だけか〜……。おれのハートをもらいたいって言われたと勘違いしちゃった。恥ずかしい。
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