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辻田はクラスメイト。野矢と辻田は教室移動のとき、だいたいまとまって動いてる。野矢はガッチリ固定グループで行動するタイプじゃないから、一緒にいるメンバーは流動的。ただ辻田は、その中でも割と仲よさそう。お昼も一緒に食べてるし。
おれは辻田を、属性は同じでおれを完全にリードしてる男、と睨んでいるのですよ。ここで探りを入れておかないとね？
「辻田？ あいつは本は読むな。日本の古典は読まないようだ」
「教養あるじゃん。心は動かないの？」
急カーブで切り込んだ。誘導尋問じみてて嫌われる？ 野矢はそう捉えない気がした。天啓ね。
「辻田に恋愛感情を持つか？ 持たないな。あいつは性癖がエグい。引くほどエグい。知らないのか？」
え？
とりあえずいい知らせから確認しよう。
野矢が辻田を好きになることはない。あいつはおれのライバルじゃない。やったー。
なぜかというと、辻田の性癖がエグい。野矢が「引くほど」と言い直すほどにエグい。へえー。そうなんだー。ヤバ……。
癖っ毛に眼鏡のほわほわした見た目で、おっとりしたしゃべり方で、いつも図書室の窓辺で本を読んでて、女の子たちに「ひつじくん」ってかわいがられてる辻田の性癖が、ねぇ……。
おもしろすぎるだろ！！ ちょっとその話詳しくいいですか？
「え、だって野矢も下ネタいけるじゃん。割とエグいとこまで」
「辻田からすればおままごとだ。あいつは高校生が知っているはずのないことを……。辻田の健全な育成はどうなってしまったんだ」
「まさか、野矢も知るべきではないことを……！？」
「ああ。恐ろしくてストップをかけたが、さわりだけ聞いてしまった。哀しいことを教えられて……」
『人間失格』だ。太宰治だ。野矢、探りに来てる？ 太宰の引用でおれにジャブを入れに来てる？
もしかして、野矢くんおれのことちょっと気になってきちゃってる！？
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