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するりと灼き付ける
色白美人さん。七難は隠れてても、魅力は隠れてませんから。自覚をお持ちになってよー?
……なんて、おれのわがままだったりすんの?
部活終わっても明るくて驚いた。6月の雨がひたすら続いたあと、久々に薄曇りの一日。明日はまた雨だろうね。冷える日ばかりで忘れてたけど、日の入りはこんなに遅くなって。夏になってくなぁ〜。
同期とだべりながら歩いて、駐輪場で2人離脱するとこ、だったんだけど。
「おい、永山。お友達が葉っぱ乗っけて歩いてる」
おれたちの逆側、校舎の方。割と遠くから野矢がリュックしょって歩いてくる。割と遠くからでも、葉っぱを頭に乗せてるのを視認できる。ええ〜?? なんでぇ〜!?
「タヌキだろ。偽物のお友達だ。釣られるな」
同期の田中が適当なことを言う。
「あんなでかいの気づかず乗せてるか!? どんだけ天然ちゃんなんだよー」
「だからタヌキだろ」
「肌白いなー。幽霊だろ」
「幽霊に化けるときに野矢をモデルにしたタヌキ」
「ありそー。幽霊に化けるなら野矢一択」
バスケ部の同期ども、ガサツでうるせー。野矢は、騒ぐ男子どもには気づいてるけど、おれがいるのには気づいてないっぽい。
野矢は男。で、お人形みたいな和風美人さん。
目は奥二重で切れ長で、白目と黒目のコントラストが強い。涼しげだけど、黒目は大きく、吸い込まれそうに深い黒だからか、現代的でモードな雰囲気も漂って。とにかく印象的な目。
細く通った鼻筋。華奢な骨格。そして、幽霊、と茶化されるくらい白い肌。
野矢は長髪が好きなタイプの男子高校生なので、ストンとまっすぐな黒髪を肩の下まで伸ばしている。今は縛ってるね。でも髪を縛ってる野矢をモデルにしたタヌキの可能性も十分にあるから、気をつけないと。
さすがに指摘してあげないとなぁ。おれが一番仲いいし。うん。それに優越感は……感じてないですけど?
「タヌキだった場合の注意点は?」
「狂犬病」
「確かに。噛まれるな」
「噛まれなければセーフだ。行ってこい」
雑な対処法で送り出される。しょぼい地方都市育ちの男どもの、極めて現実的な注意点ですね。
山奥出身のおれですが、僭越ながら東京育ちのおぼっちゃまに、身だしなみのアドバイスを。
野矢に駆け寄ると、おや、という顔でおれを見る。笑われてたのは気づいてたかも。嫌な気持ちにさせちゃったなー。すまん。
「ね、葉っぱ乗ってる。頭に。ちなみにタヌキだと困るから距離を取ってる」
おれは普段の3倍のパーソナルスペースを確保しながら教えて差し上げた。野矢は頭を探って、葉っぱを取り外し、しげしげと眺める。
「本当だ。ずいぶん大きいな。いつから乗っていたんだろうか」
恥ずかしいって気持ちはないんだよな。野矢のそういうさっぱりした空気感は、結構居心地がいい。
「どこから来たのよ」
「図書室を出て、少し中庭で座っていた。そこで乗ったんだろう」
「あーね」
中庭で、誰かと話してたわけじゃないのよね。だったら「野矢くん葉っぱ乗ってるよ」が発生するもんね。
え? 安心とかはないよ。野矢と話すと居心地がいいって思うのはおれだけじゃないだろうし。野矢とおれだって普通にサシで話すこともあるし。十分です。
「私がタヌキでないことを証明するのはなかなか難しい。諦めろ」
距離を取り続けるおれに苦笑するから、覚悟を決めて普段の距離感に戻した。
……うん。噛まれなかった。よかったー。
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