異端弁護路

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 今回本当にため息しかなかった。  依頼は本人の意見もあって断ることになった。  帰りの車で秋森は窓からの景色を眺めてる。 「怒っても良かったんじゃないですか?」 「どうしてあたしがあの子の道を正さないとならん? お母さんじゃないんだから」 「彼女どうなるんでしょうね」  その時に秋森が楽しそうに振り向いた。 「なんだ? もしかしてまた惚れたの? 全く前島も飽きないね」  前島の惚れっぽさは事務所、ならず弁護士界くらいでは有名になっている。 「そんなことありません。ただあんな風じゃこれから思いやられるなと」 「彼女の人生終わったんだからしょうがないじゃん。ホントに惚れてないの?」  ちょっと楽しそうに秋森が見ている。こんなことが好きなのだから。 「有りません」 「そんなにきっぱり言われるとつまらんなー。流石に若すぎるか」  勝手に秋森は納得している雰囲気がある。その姿を白々と前島は睨んでいた。 「俺はずっと昔っから好きな人が居るんですよ」  馬鹿にされているのもどうかと思ったから前島は語るのに秋森はそれを聞いて高らかに笑うだけだった。 「そんな筈が有るかい。まあ、そう言いたいなら構わないけど」  全く信じてなかった。秋森は楽しそうに笑って暫くしてから真剣な顔に戻った。 「しかしなー。今回の子には参ったよ」 「やっぱり、怒ってましたよね?」  笑いの次はため息だったので、前島がもう一度聞いていた。当然そうに違いないと思っていたから。 「しつこいな。怒ってないって」 「おばさんて言われた時もですか?」  そう言われた秋森は一度腕を組んで考えた。 「なるほど、あれは怒るべき瞬間だったな。自分の事じゃないと思っちったから」  のんきな雰囲気すらもある。呆れるほどではない。秋森のことを知っていたら納得でも有るから。 「じゃあ、どんなことで参ったんですか?」  前島からはそれが知りたかった。正直秋森が自分で「参った」と言うことなんてあり得ないから。今まではなかったと記憶している。 「うーん、あんな若者ばかりだとしたら、この国の未来は暗い。あの子風に言わせてもらうと、終わってんよ」 「若い子の話し方、似合いませんよ」  秋森が若ぶって話しているので前島がつまらなそうに見つめていた。すると秋森もニコニコとした表情になっていた。 「やっぱそうか。しかしだな、あんな奴らにあたしどころか他のどんな人を貶すことはできないぞ。終わってんのはそっちなんだからな」  その点に関しては秋森も怒っていると言うか呆れている。 「そうですね。これからあの子の人生の道はずっと日影だろうから」 「犯罪者で、実名報道だからね。こりゃダメだ」 「まあ人の悪口を言うわないように」  二人は車で誰にも聞こえないように話していたが、もちろん弁護士が言うことではない。 「あたしは知らんよ。今日はどんな案件だったけ?」  そんな風に考えるのが危なくない。耳がどこにでも有るから。一応秋森は解っているのでこの話を終わらせた。 「んでさ、こんなのでも仕事として事務所に請求するってのは有りよね」  今回は依頼を断ることになった。と言うことは秋森は骨折り損でしかない。当然の事を聞かれた前島は気まずくなっていた。  「無いから」  呟きにすら似た言い方を綴り語る。 おわり
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