異端弁護路

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 顔を合わせてみるとまだ幼さの残る女の子で年齢は十八歳になったばかりとのこと。若干話を聞いてないそぶりが秋森の怒りメーターを増やしている。取り合えずまだ恐らくは危ないと言えるくらいには一応無い。 「一通りの話はさっき聞いたのですが、話しておくことは有りますか?」  落ち着いて話している秋森だったので前島は一安心していた。まだ営業としての心得が効いているのだろう。しかし実際のハラワタの状況は想像したくない。  事情はこの子と会う前に一応把握している。弁護士なので聞き取りは重要。そして本人からの話も聞かなければならない。 「あのさー」 「はい。気になることがあれば聞きますよ」  本当に秋森は良く耐えている。気だるそうに話す彼女にも笑顔を絶やさない。つい前島は横で頷いてしまうところだった。 「パパが選んだ人か知らないけど。私、もっと腕利きの人に頼みたい」  ピシッとコンクリートにヒビが入ったような音が聞こえた。もちろんそれは前島の心象だろうが秋森がいつ噴火するのかはもうわからない。 「私どもでも十分に力になれると思いますが」 「なんかさー、普通なんだよね。もっとクリエイティブな雰囲気の人じゃないと。ホラ、普段着で実は弁護士、みたいな」 「それはテレビドラマの中にしか居ませんよ」  確かにそんな物語が人気になる。だけど実際の弁護士、に限らず法律家ならキチンとスーツを着ている。それが当然。  もちろん秋森も事務所で書類仕事だけと言う日なんかはだっさいジャージ姿のときも有る。とは言えそれは非常に稀なこと。 「私が言いたいのは、人生終わってる人にこっちのことをとやかく言われたくないの」 「終わってる。とは?」  こそっと前島は秋森の横顔を確認する。まだ問題ないだろう。怒ってはいるが爆発はない、と思われる。 「人生の道が行き止まりの終わってる人間っているでしょ。簡単な例だと、ホームレスとか貧乏人もそんで夢のない人」 「夢のない人まで含まれますか」  愛想笑いまで秋森は含めている。もう怒っても誰も文句言わないだろうに。 「おばさんはどうなんです?」  ドカンッと秋森は目の前の女の子を千切っては投げた、なんてそんなことになると前島は思っていた。 「おばさんはどうなんだろうね。一応自分では充実してると思ってるけど」  素晴らしい笑みで返している。それは前島が本当に横にいる人は秋森なのかと疑いたくなるくらい。  しかし目の前の彼女は冷たい目で秋森を睨むように見てた。 「弁護士なんだろうから、勉強は頑張ったんでしょうね。だけどそれに胡坐をかいてる人はダメ。権力で弱い者いじめをする人なんて最低だよ」 「うーん、私は弱い者の味方のつもりなんだけど」 「そう。偽善なんだ。マイナス。じゃあ、プライベートは? 彼氏は居るの?」  次から次へとバッシングが終わらない。正直「それは聞いてはダメだ!」と前島は叫びたかった。 「居ませんね。残念ながら」 「歳はいくつなの?」  彼女からの質問は続いた。これも聞いてはダメなことだからもう前島は冷や汗が止まらない。 「三十二になります」 「ふーん、やっぱ。終わってんじゃん。おばさんの未来はどう? 明るいの? 道がないんじゃない? 私は違うよ。未来が有る。まだ若い、のに結婚の約束をしてる彼氏もいる。パパに頼めば有名企業にも務められる。羨ましいでしょ」  これは止めの一撃なのかもしれない。前島は危機を察知した。 「ちょっと、待ってください。どうでしょう話は続くので飲み物でも! 自販機で買いますよ」  秋森と女の子の間を割るように笑顔を振りまく。 「私はカフェのコーヒーしか飲まない」  彼女は我儘娘さんの様子。こうなると更に秋森のことが気になった。 「良いんじゃない。買ってこよう。近くに有ったよね」
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