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リョウマとの出会い
身勝手なのは承知している。
最後にリョウマを拒絶したのは私なのだ、そんな妄想に付き合わせていいような立場にない。
だけどあの優しさが柔和な笑顔が、もし娘に向けられていたならどんなに幸せなのだろう。そう考えてしまうことがあるのも事実。
美化されている。
間違いなく美化されている。大学生という青春のど真ん中で主役を演じていた私とリョウマ。実はそうでもない往年のドラマが名作であると謳われるのと同じように、現生活の輝度と対比され鮮やかに映える。それがどんな結末であろうとも、良い時の記憶だけは色褪せはしない。
***
大学入学時に数度だけ集められた『基礎クラス』。連絡事項や履修の説明を受けるため、たまたま区切られた30名程度。その中に私たちはいた。
私は地元の大学へ進んだので普段は知り合いもいたのだが、学籍番号順に切られてしまった基礎クラスでは、完全にアウェイだった。
いつもなら誰かしらが埋めてくれていた隣の空席に、重く冷たい透明人間が座っているような、何となく嫌な感じがしていた。
「ここ……空いてますか?」
その声に目線を上げると、そこにリョウマがいた。
「ここよりも都会から来たんだろうな」と自然に思わせるような垢抜けた出で立ちで、そのクラスの誰より目を引くキラキラした青年だった。
「空いてますけど」
素っ気なく返した。なめられたくなかった。
「良かった! 失礼します」
私の威圧などに全く動じず透明人間を押しつぶした。
リョウマは心底嬉しそうに口角を上げると、その顔は一気に少年のように若返って見えた。
大学に入って1週間程度だが、どことなくギラついた男子が突然隣に座ってくること、話しかけてくることが数度はあった。何らかの「結果を求めている」彼らとは違い、リョウマが欲しかったのは純粋にこの「空席」なのだろう。そう思わせる、落ち着きと自然さがあった。
担当教員の説明の間も、リョウマは私に話しかけてくることは無かった。別に話しかけられたかった訳ではないが、話しかけられないのも違和感がある。入学後にチヤホヤされ慣れた私は、シャーペンでプリントの余白にグリグリと黒点を描いた。
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