軋轢

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軋轢

 大学1年の秋に付き合い始めた私たちは、あっという間に3年の月日を過ごした。大学でも有名な『仲が良くて長続きしているカップル』だった。  ……また自慢じゃないけれど、頼んでもないのに学園祭で「ベストカップル」に選出されるくらい美男美女と認識されていたと思う。  ――大学3年。  就職活動の時期を迎えていた。私には夢がなかった。何となく仕事をして、何となく結婚できればいいな。そんな程度。  一応学校の先生を目指して選んだ大学だったけれど、この程度の気持ちで先生になっていいのかな、なんて教職課程を取りながらペンを回していた。  その頃、リョウマには夢が出来ていた。バイト先のスポーツショップで働くうちに、スポーツ選手を支えることに興味が出たらしい。  私たち文系大学とは似ても似つかない夢だったが、元々スポーツマンだったリョウマの目は、夢に向かって輝いていた。資格を取るために専門学校を探し、勉強を始めていた。  私は正直言って、リョウマと結婚すると思っていた。だからリョウマが夢に向うことが結婚への回り道になることも分かっていた。  ただ不思議なことに、結婚が遅れることなんてどうでも良かった。夢を叶えて毎日笑顔で過ごしているリョウマと一緒に暮らせることが、幸せに思えてならなかった。  私は教師になることを正式にやめることにした。休暇が取りづらく、激務だという話を聞いたからだった。そして休日が仕事になりやすい営業や販売の仕事にエントリーすることも避けた。実際、文系出身でそれらを省くと自分の強みを活かせる仕事はガクッと減る。  それでも、また学生になるリョウマと休みを合わせたかったし、生活が噛み合わなくなりそうな仕事をしたくなかった。  結果的に私はWEBデザイン系の職場に内定が決まった。会社面談の時に話した女性が既婚者だったこと、そして育休をとって復帰したことを聞いたのが決め手になった。それに会社員ということで土日休みだ。未経験なこと以外には不安要素が無かった。  私の就活が進んでいく中、リョウマも勉強を続けていた。  私は万事順調だと思っていた。でも私が色々考えていたように、リョウマも色々と考えていたのだ。
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