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それから
距離を置くなんて言うのは体の良い言い訳で、結局のところそこから元の関係になんて戻りはしないのだ。
それまで仲睦まじかった私たちの破局は、大学でも話題になったようだ。大した付き合いも無かった知人に、心配の声をかけられたくらい。
私とリョウマは別れた。だけど、連絡を取ることをやめることが出来なかった。私は何かあると報告したくなるし、それはリョウマも同じようだった。
要するに、どんな友人より、誰よりも居心地の良い存在になってしまっていたのだ。メールもしたし、飲みにも行った。夜通しドライブして、疲れたらその辺りに泊まったりもした。
だけど復縁するような流れになる度に、私は拒んだ。
信じられなかったから。一緒にいる分には好きな気持ちが勝っているけれど、復縁して結婚という流れには、なれる気がしなかった。
私にはリョウマに対し「私を言い訳にして夢から逃げた」という意識がどこかに芽生えてしまっていたのだ。だから将来を考えられないし、将来を考えられないなら、恋人に戻ることは出来ない。そう思っていた。
結局大学を卒業して、就職してからも私たちは会っていた。
ゆきずりの関係とはよく言ったものだ。それでも頑なに復縁出来なかった私は、超の付く頑固者だと思う。
そして数年経ち、私は今の旦那・ケンタに出会った。ちょうど同じ頃、リョウマにも気になる人が出来たようだった。
――そんなある日、突然私の家の前にリョウマの車が停まっていた。リョウマは私を乗せると、いつものドライブコースを走り始めた。
「……そろそろ、決めない?」
「なにを」
「俺は今でもアンナが一番好きだし、結婚したい。だけど、どうしても無理だって言うなら、もう、会わない方がいい」
「そう……だね」
互いの将来を見据えた結果、リョウマは苦渋の決断をしたのだと思う。自然に連絡を取らなくなれば済むのに、こうして言いに来るあたりが、最後の最後までリョウマらしくて好きだった。
「アンナ、結婚しよう」
「……ゴメン、やっぱりそれは無理みたい」
「やっぱり?」
「うん」
「そっか……つらいなあ。でも、諦めるしか、ないな」
隣を見ると、運転席で大粒の涙を流しながら、前方を必死に見るリョウマの姿があった。私はそれを見て、自分勝手にも涙を流していた。
なに泣いてんの、そんな資格ないだろ。
お前のせいだろ。この頑固者。自分で自分にそう思った。
こうして強く交わった私たちの道は、違う方向へと走り出した。
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