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◇
中山さんがいつ、どうやってこの部屋に入って来たのかはわからない。松永さんも真後ろに中山さんが来るまで気づかなかったようだ。
こういうことはよくあるが、毎回の任務で慣れた。
だがスリーパーホールドと膝蹴りはダメだろうと思うが、よく考えたら中山さんが須藤さんと松永さんからやられたことだから仕返しされても仕方ないと納得した。
中山さんからスープを飲みたいと言われ、コーンスープを作っていると、中山さんは私の背中越しに謝罪した。『守れなくてすまなかった』と。
私は振り向いてベッドに腰かける中山さんにコーンスープを渡して、中山さんの横に座った。
「体を仕上げなかった私の責任です」
「いや、違う」
熱いコーンスープを冷ましながら、横目で私を見る中山さんは落ち込んでいる。
天井裏に潜んでいたのが松永さんと須藤さんでなかったら、私たちは生きていなかっただろう。
ならばいいではないかと、私は思う。お互いに命を預けたのだから。
「私の命は中山さんにあげましたよ」
「ああ、ふふっ、そうか」
私たちの正面のソファには松永さんが伸びている。
その姿を見ていると、中山さんは『そろそろ起きるから松永の前に座ってよ』と言った。
私は言われた通りに松永さんの前に座ってもたれかかると、間もなく松永さんは息を吹き返した。
顎を押さえて咳き込む松永さんは私が座っていて身動きが取れず、悪態をついていた。
「松永さ、お前も気抜いてんじゃん。人のこと言えねえだろ」
「うるせー! バーカバーカ!」
「最初のうちは俺に気づいてたくせに何だよ、お前」
「バーカバーカ!」
「それしか言えねえのかよ」
「バーカバーカ!」
同期同士のしょーもない会話だが、この状況だと松永さんは本気でムカついているのだろう。
私が口を挟む余地はないなと黙っていると、中山さんは突然、真剣な顔をして言った。
任務の時と同じ、厳しい顔だった。
「お前も加藤を守れてねえじゃん」
松永さんは何も言い返さなかった。
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