さざなみ荘のふたりとひとり

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「いや、で、匠海はなんか用事で来たのか? って」  数拍おいてから出てきた真雪さんの質問に、匠海ははっとして頷いた。 「え、あ、ああ。うん、兄貴がアイスたくさん買ってきたから持ってけって」 「マジで? ありがとー、わーいっぱいあんじゃん」  ささっとクーラーボックスが受け渡され、惜しむことなくオープンされる。真雪さんに促され私ものぞくと、箱アイスだけでなく、スーパーで見かける有名どころのアイスが一通り入っている。 「こんなに、いいの?」  匠海の家は四人きょうだい。下二人はまだ小学生だ。その二人のほうが喜ぶのでは、と私が訊ねると匠海はようやくいつものように笑ってくれた。 「たくさん入ってると延々に食べるからあいつら」 「わかるー。夏だもん、アイス食べたいよね」  そう言いながら真雪さんは「やっぱこれだよ」とスイカのアイスを取り出した。 「ありがとう。匠海も一個、食べる?」 「え、いいのか?」 「いいぞー、せっかくだしみんなで食べよう」  真雪さんのその提案で、私たちは窓辺に座ってアイスを楽しむことにした。私はフルーツの入ったアイスバー、匠海はモナカタイプのを選んで、残りは冷凍庫へしまってくる。  私が二人に挟まれる格好で並ぶ。足を履き出し窓から垂らすと太陽がつま先をじりじりと焦がしていく。 「匠海と真雪さん、いつの間にか仲良しなんですね」  垂らさないように気をつけて食べながら聞いてみると、あぐらをかいていた真雪さんがこくこくと頷いた。 「ゲームの話で盛り上がったからね」 「あ、そういえば匠海もゲーム好きだったね」 「おう。あんま身近にあのゲームやってる人いなかったから」 「そーそ。菫は?」 「菫はゲームしたことないんだよな」  私より先に匠海が答えたので、私は頷くだけにした。 「えっ、マジで?」  真雪さんが目をまんまるくする。 「はい。あの……、ゲーム持ってなくて」 「スマホは?」 「え、スマホは持ってますけど」 「違う違う、アプリとかでゲームしないの?」 「ああ……ない、ですね」  そういやスマホがあればゲームができるのか、と今気がついた。学校の友人たちは匠海を始めやってる子も多い、と思う。でもどうしてか、自分ができるのだということに今まで無頓着だった。 「よし、匠海、ゲーム大会しよう!」  スイカのアイスを平らげた真雪さんが、突如立ち上がった。 「ゲーム大会っすか? 今から?」  まあできますけど? といった表情の匠海もなぜか立ち上がる。 「菫、やるよ」 「え? え、私もですか?」 「もちろん。大丈夫、誰でも遊べるやつにしよう。やっぱレース系か……」 「格ゲーって手も」 「いや格ゲーはなー……ねーちゃん誘ってアリカーかな」  両隣が頭の上で協議を始めている。 「真咲さんもゲームするんですか?」  気になって少しだけ見上げて問うと、真雪さんが腕を組んで「あの人はねえ……」としみじみし出した。 「あたしが唯一、ゲームで勝てない相手」  その言葉に、私も匠海も「えっ」という驚嘆の声が重なる。  まったく想像できない。優しくて自然体で、鼻歌交じりで料理して、畑仕事や庭仕事に勤しむ真咲さんがゲームとは。真雪さんの実力がどんなものでも、意外すぎる新事実だった。 「あたしもねーちゃんにリベンジしてやる。菫、準備するよ! やるよね?」  すっかり開催する気満々で、参加の有無を聞かれたけれど、逆に月島きょうだいのゲーム事情が気になりだして、私も二つ返事で頷いてしまった。  その後、真雪さん主催のゲーム大会は四人参加で夜遅くまで続いた。合間合間にお菓子を食べ、ジュースを飲み、真咲さん特製なんちゃってピザを食べ、盛り上がった。  最初に言っていたアリの世界でカートレースをするアリカートデラックスなるものを四人で対戦し、真咲さんが圧勝。その後、三人で格ゲー対決へと進み、またしても真咲さんが圧勝。  真雪さんだけでなく、匠海までもがリベンジを誓う展開に、私はほどよい疲れと胸がいっぱいになるような感覚を初めて味わっていた。  
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