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「ハイヒールを履くと足が細くなるんだって」
放課後の教室、教科書を鞄に入れて帰り支度をしていた私はぎくりとした。
唯一教室に残っていた山田美花が私に片手で靴の箱を差し出した時はぎょっとする。
私には好きな人がいる。
私は普通体型ではあるけど、最近ひそかなダイエットに目覚めた。
美花はいつ、私が一番足痩せしたいことに気づいたのだろう?
親友というのは時に恐ろしい。
「瑠衣、帰り道はこれ履いていきなよ」
「で、でも、ハイヒールなんて履いたことないよ?」
私が口をつぐむと、美花は靴箱を差し出したまま、互い違いに合わさった靴を指差した。
「いちごのように赤く甘い恋を秘密にしてる瑠衣だからワンポイントでいちごのついた赤色のヒールを選んだ」
「そうなんだ」
美花はとんと靴箱を私の机に置いて、教室の扉へと歩き出す。
「じゃあ私部活あるからー」
「あ、美花! 私誕生日でもないのにもらっていいの!?」
「いいよー。田嶋朝陽先輩によろしくー」
「わあああっ、何で田嶋先輩なの!?」
「この前の先輩のバスケの試合であんなに大声で応援してたら誰でも気づく。あれは分かりやすかった」
「え!?」
「じゃあねー!」
美花は一度も振り返らずに私に手を振って、廊下へ消えていった。
その話、誰かに聞かれたらどうしてくれるのよ! と私はキョロキョロ辺りを見回す。
誰もいなかったのでほっとしたが、すぐにぴくりとする。
好きな人が美花にばれているじゃないか。
しかも誰でも気づくとも言っていた。まさか、嘘でしょ……と私は思う。確かに先日のバスケの試合は勝ち負けが田嶋先輩のシュートにかかってたからはらはらして大声出したかもしれないけど。
そう、ずっと好きなのだ。
物心つく頃から、ずっと。
「帰ろ、帰ろ帰ろ!」
ぶんぶんと頭をふり、一気にその場から逃げ出したい気持ちになり、私は鞄と靴箱を持って急いで玄関に向かう。靴を履きかえる時にちょっとためらったけど、履いてきた靴ともらった靴箱は下駄箱にしまい、私はハイヒールを床に置き、おそるおそる足を出す。
「サイズぴったり、可愛いかも」
試しに玄関内で一人でうろうろしてみる。少々不格好な歩きになってしまうが初めて履いたハイヒールは歩くたびにうきうきしてしまった。
このハイヒールを履いて帰ろう。
でもこの決断がよくなかった。
ハイヒールのかかとがぽきりと折れたのは学校の門を出て、大通りの中間地点辺り。
道の真ん中で見事に私は右足をひねり、うごけなくなってしまった。
「なあに、あれー」
「格好悪ー」
近くを通りかかった女子高生二人にくすくすと笑われて心も折れた。
私は高一で彼女たちと同じ年齢くらいなはずなのに、彼女たちには同情はないのかと思った。がっくりと肩を落とした……そんな時だ。
「羽村?」
声がして顔を横に向けると、私は一気に青ざめる。
バッドタイミングで
田嶋先輩が通りかかってしまったのだ。
コンビニから出てきた田嶋先輩はリュックサックを背負い、小さなビニール袋をぶらさげていた。
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