Ⅰ 妹

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 お母さんが段々と静かに怒り始めたのに気づいているのは私だけで、ハルは地団駄を踏んだと思うと一人で玄関の方に向かおうとした。そんなハルを私は止めようとしたが、先にハルの腕を掴んだのはお母さんだった。  「…いい加減にして。」  お母さんの手には力が入っている。無理矢理引き止められたハルはもちろん暴れ始めた。この展開はまずい。そう思った私はハルを沈めようと間に入った。  「ちょ、ちょっとだけ。ちょっとだけお外に出たら、ハルも落ち着くから。お願い、お母さん。私ハルのことちゃんと見てるから。ハルもいい子に出来るよ。ね?ハル。」  私がハルにふると、ハルは涙目で頷いた。お母さんはまだハルの腕を掴んでいる。  「ほら、出来るって。だから大丈夫だよ。」  「…本当に?」  私が宥めるとお母さんは少し揺らぎを見せた。ここで押さない手はない。私は不安そうなお母さんの目をしっかり見ながら力強く頷いた。するとお母さんは大きなため息を一つ吐いた。  「本当にちょっとだけよ。」  そう言ってお母さんは立ち上がり、ハルの腕を離した。外に行けるとわかったらしいハルは機嫌を直しきゃっきゃと言いながらお母さんの後に続いた。こんなこと、今まであっただろうか。用事もなく外に出られるなんて。興奮気味だったのはハルだけではない。私もその一人だった。
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