Ⅰ 妹

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 次に目が覚めたのは、突然ガタンと大きな揺れを感じたからだ。一体どれくらい眠っていたんだろう。せっかくの船の上なのに、私は最後まで眠っていた。暗がりに目が慣れて隣にいるハルを見る。こんな衝撃にも動じず、ハルはすやすや眠っていた。  そういえば、お父さんとお母さんの声が聞こえない。不思議に思って被っていた毛布から出ると、そこは見知らぬ場所だった。お父さんとお母さんどころか、人一人いる気配がない。そう感じた途端、突然怖さを感じ始めた。一体ここはどこなんだろうか。  乗っていたのはやはりボートで、あてもなく水面を漂っているとたまたま岸辺にその先が当たったというようだった。岸の先は雑木林で霧がかかっている。冷たい空気が辺り一体を包んでいる。ハルはまだ眠っている。ハルを起こしてしまうときっと怖がって泣いてしまうだろうとは思ったが、ボートの止め方もわからないためこのまま乗っていればまたボートは漂い始める。この霧の中じゃ行く先もわからず今度はいつ岸に辿り着くかわからない。だから私は思い切ってボートを降りることにした。そのためにはハルを抱え上げないと行けないので、私は出来るだけハルを覚醒させないように毛布ごとそっとハルを持ち上げた。五歳の私は大人の大きさには程遠い。だからハルをそっと抱え上げるなど不可能だ。どうしたって激しく揺らしてしまう。ボートの上だと言うこともありなんとかバランスを保ちながらハルを抱え上げると、ハルは無理矢理起こされそうになった時のようにうぅと声を漏らした。私はハルが目を覚さないように優しくハルの背中をトントンとしながら転覆しないようにボートから岸に登った。  「あっ」  思わず声をあげたのは、勢いで岸に乗り上げたため反動でボートが岸辺から遠ざかっていったからだ。呆然と見ていると、ボートは濃い霧の中に消えていった。  ああ、また叱られるな。  先にどこかに行ってしまっただろうお父さんとお母さんのことを考えると、身震いするようだった。
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