Ⅰ 妹

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 水辺から離れハルを抱えながら歩いてみたものの、どこまで行っても木ばかりで人がいる気配は全くない。なぜだろう。お父さんとお母さんはいるはずなのに。二人ともどこへ行ってしまったんだろうか。  それよりも、なぜこんな場所に私たちを連れて来たんだろうという疑問が残っている。私たちはどうしようもない子どもだから、誰にも見られない夜に誰もいない場所でキャンプでもしようと考えたのだろうか。だとしたら、二人はどこかうってつけの場所を見つけてテントを張っているのかも知れない。  「お父さん、お母さん。」  音一つ聞こえない林の中で声を出すのは勇気がいった。でも、いくら探しても見つけられないため私は試しにそう言ってみた。小さく出した声はどこにも届く気配がない。  「お父さん、お母さん。どこ?」  だからさっきよりも大きめの声で言ってみる。すると声は木の間で少しだけ響いたのを聞いた。その音にびっくりする。が、返事はない。  「お父さん!お母さん!」  何も聞こえない怖さに心臓が徐々に激しく鼓動し始め、膨らんでいく不安から私は大きな声でそう叫んだ。私の声が雑木林の中で響き渡る。だが、何も返答はない。お父さんもお母さんも、動物さえもいないようだった。  どうして誰もいないんだろう。まるで世界にハルと私しかいないようだ。
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