Ⅰ 妹

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 その先の地面に転がっていたのは、人の体だった。それも上半身だけの体だった。初めは暗くてそれが何かも判別できなかった。でも近づいて見てみると、それは確かに動かない人だった。この大量の液体はちぎれた体の中から溢れ出ていた。内臓が尻尾みたいに伸びて出ていた。私を起こしたこの異臭の元はどうやらここらしい。そんな光景を目の当たりにしたのが初めての私は妙に冷静で、叫び声も上がらなかった。私の感情を大きく揺さぶったのは、それではなかった。  人が他にいたんだと何となく顔の方に近づいた私は、息をしているはずのないその顔を覗き込んだ。初めはよくわからなかった。子どもだということしか認識できなかった。でも、ついさっきまでの記憶が呼び戻されて私は段々と目の前の現実を理解し始めた。  そこに横たわっていた上半身だけの人間は、ハルだった。  「ハル。」  悍ましいものを見たような恐ろしい表情で目を見開いたままのハルがそこにいた。まるで最期の瞬間を映したまま時が止まっているようだった。一体何があったのか。そう考えるよりも先に、真っ白になっていた頭の中がはっきりとしてきて、同時に目の奥から何かが溢れ出た。  「ハル…」  地に掌をついた小さな手の甲に触れる。血の通っていないその手にはもう温もりがない。ついさっきまで握っていたはずのこの手は、まるで別の何かのようだった。  こんなことになったのは、私がちゃんと見ていなかったからだ。  そんな考えが頭をよぎった。私が眠ってしまわなければ、ハルをしっかり抱いていれば、ハルは一人でこんなところに来ることはなかった。これは全部、私のせいだ。  そう思うと、涙が溢れて止まらなかった。    「ごめんね…ごめんねハル….」  忙しいお父さんとお母さんの代わりにハルの面倒を見るのが私の役目。なのに私はこんなに早くも大きな過ちを犯し、最悪の事態を招いてしまった。最愛の妹を亡くしてしまった。  その現実が私を襲い、激しくなる鼓動と共に嗚咽を漏らしながら私はその場でわんわんと泣いてしまった。
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