Ⅰ 妹

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 そんな状態だからなぜハルがこうなってしまったかなど考える余裕もなく、私は身の回りに警戒することもしなかった。更なる異変に気付いた時は、もう遅かった。  泣き喚く私の後ろに何かの気配を感じた私は勢いよく振り返った。私のすぐ後ろにあったのは、鋭い歯が無数に並んだ大きな口だった。その中から生暖かい吐息がもれ、それは風の如く私に吹いてきた。ゆっくり開くその口の中は真っ暗闇で、徐々に私に迫ってきた。  ああ、これがハルを食べたんだ。  それを見て、私は思った。すると私の中で何かが激しく動いたのを感じた。それと同時に怒りが湧き上がった。  あんたのせいだ。あんたが私からハルを奪ったんだ。許せない。絶対に許さない。  込み上げた怒りに任せ、私は腹の底から叫び声を上げた。その瞬間、地面が激しく揺れ地の底から強い風が上に向かって吹くように土が剥がれ衝撃に耐えられなかった怪物ごと吹き飛ばした。下から押し上げられた怪物は背から地面に落ちすぐには起き上がれなかった。今だと反射的に思った私は怒りに任せ力を使い、怪物に薙ぎ倒された木を二本浮き上がらせて勢いよく怪物の腹に突き刺した。聞いたことのない叫び声を上げた怪物は痛みで一層暴れる。抵抗する怪物に負けないようにめいいっぱいの力を込めて怪物に刺した木をその体に貫通させた。  ハルはもっと痛い思いをした。まだ小さいハルの命を奪ったあんたの罪は重い。こんな痛みで許されるはずがない。  私からハルを奪ったこの気持ちを思い知らせてやる。  収まらない怒りに任せ、私は生えていた木さえも力で地面から抜きそれを空に振り上げて力一杯怪物めがけて振り下ろした。高く気味の悪い叫び声を最期に上げた怪物は、のけぞった後そのまま動かなくなった。まるで電柱のような鉄の槍を何本も体に刺され、地面に串刺しになったような怪物はあっけなくも死んでしまった。  これで終わりなの。まだ怒りは収まらないのに。  ハルを返して。返してよ。
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