II おじいさん

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 あ、そうだハル。それにお父さんとお母さんも。  家族の存在を思い出し、この部屋はもしかするとお父さんが借りたコテージかもしれないと考えた。だったら三人はこの辺にいるはずだと思い、私は勢いよく部屋を飛び出した。ドアを開けると下に降りる階段があり、少し高めの段数だから気をつけながら降りていく。降りきった右手に広がっていたのはキッチンとリビングが合わさったような空間で、ついさっきまで人がいた形跡が見られた。シンクには飲みきった直後のコーヒーカップ、テーブルの上にはまだあたたかそうな料理がラップに包まれて置かれていた。生活感溢れるロッジを飛び出すと、目の前には湖が広がっていた。とても気持ちのいい場所だ。外に出た時、初めにそう感じた。  「ハルー。お父さん、お母さん。どこー?」  初めて訪れたこの開放的な光景に目を奪われそうになるのを我慢し、私は真っ先に三人を探そうと名前を呼びながら辺りを探した。三人は近くにいないようで、いくら名前を読んでも返事がない。もしかして、私が一向に起きないからみんな先に遊びに行っちゃったのかな…せっかくこんなにいい場所に来れたのに、ハルとかけっこでもしたい気分なのに。一体どこへ行ってしまったんだろう。  少し不安を覚え始めた時、湖手前にある茂みで突然ガサガサと音がした。びっくりしてそっちを見ると、その中に何かいるようで葉っぱが擦れる音が鳴り止まない。もしかしてハルがかくれんぼしてるのかな?そう思った私は茂みにグッと近づいてそこを覗き込んだ。  「ハ…」  その名前をもう一度呼ぼうとした時、バッと何かが茂みから突き出てきた。  「わあ!!!」  驚きのあまり声を上げて私は後ろに尻餅をついた。見上げると、茂みから犬が顔を出していた。  「わん!!!」  その黒い犬は私と目が合うと、一度吠えて茂みから飛び出した。そして転んだ私に飛びかかってきて、慌てる私に容赦なくその犬は私の顔を舐めまわし始めた。  「ちょっと、くすぐったいよ!」  敵意はないとわかった瞬間私は楽しくなってきて、きゃっきゃと笑い声を上げた。
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