Ⅰ 妹

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 私がハルの異変に気づいたのはそう遠くない未来だった。ハルが生まれて五ヶ月が経ち、その日も仕事に行ってるお父さんと買い物に出掛けているお母さんの代わりに家でハルの面倒を見ていると、眠っていたハルが突然目を覚ました。何だろうと見てると、ハルは右の腕を上に伸ばして天井からぶら下がっているモービルを触ろうとしているようだった。五ヶ月の赤ちゃんの腕の長さでは触れられない位置にあるから危険はないと、その姿を私はただぼうっと見ていた。  ハルが何度か手のひらで空をかくように腕を動かしていると、不思議なことが起こった。今まで静かだったモービルが少し動いたのだ。初めはハルが手を仰いでいるからだと思った。それで風が起こってそれを揺らせたのだと。だが一連を見ていると、モービルの動きが段々と激しさを増していった。くるくる回るタイプのそれは触れてもいないのにゆっくりと回り始めたのだ。ハルはまだ腕を動かしている。それに合わせるようにモービルの動きは激しさを増し、気づけば遊園地のブランコの乗り物のように遠心力で飾りが外側に引っ張られ勢いよく回っていた。その光景は少し怖く感じた程だった。ハルは夢中で腕を動かしながら激しくまわるモービルを見ている。  「ハル!!」  ようやく我に帰った私はハルの腕を押さえ込んで止めた。その途端モービルの動きが急停止し、勢い余った飾りはぐるんと外側に引っ張られた後止まった大元に合わせてだらんと下に垂れ下がった。そして再び、何事もなかったように動きを止めた。それを見てハルは笑った。  「全然面白くないよ…」  ハルの行動とらしくないモービルの動きに驚いていた私は呑気に笑うハルにそう言った。  もしかしたら…  一連を見て浮かんだ疑問が確信に変わったのは、それからすぐだった。
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