II おじいさん

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 「実はな。ジュンちゃんの妹は…もういないんじゃ。」  そう言われ、初めは両親と一緒に先に家に帰ったという意味かと思った。私がじっとおじいさんを見続けていると、おじいさんは更に続けた。  「この場所はな、ジュンちゃん。とても危険な場所なんじゃ。ジュンちゃんたちが住んでいるところにはいない、恐ろしい怪物がたくさん住んでいる場所なんじゃよ。」  怪物…?その言葉は私に何かを思い出させるような気がした。  「この家と周辺は守られておって安全じゃから安心して欲しい。じゃがな、ジュンちゃんがここに来る前にいた場所は怪物がうろついてる場所だったんじゃ。それでな、ジュンちゃんの妹は…」  おじいさんは言葉を詰まらせたようだったが、意を決したように話を続けた。  「ジュンちゃんの妹はな、その怪物に喰われてしもうたんじゃ。」  その一言を聞いて、目覚めてから忘れていた現実がパンっという衝撃と共に一気に蘇ってきた。  夜林で目覚めると上半身だけのハルが横たわっていたこと。  目のない怪物がそこにいたこと。  その怪物を、私が殺したこと。  全部思い出した瞬間、あの感情が再び私を襲った。さっきまで楽しかったのに、ハルがこの世にいない辛さと悲しみ、私のせいだという罪悪感、ぐるぐると胸の奥が掻き乱されるような気持ち悪さ、無意識にギュッと心臓が縮んでいくような感覚。私は視線を落とした。忘れていたことを思い出したんだろうとおじいさんは気付いたに違いない。そこから沈黙が少し続いた。
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