Ⅰ 妹

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 ハルは歩き始めるのも言葉を話し始めるのも早かった。初めて歩いたのはハルが八ヶ月の時で、それはお母さんがいる時だった。でもハルが初めて言葉を話したのは、いつものようにハルと私、二人の時だった。もうすぐハルが一歳になるその日の午後のことだった。  モービルの一件があってからこの五ヶ月と少しの間、もしかしてと思うことは何度かあった。その日も私は、ハルがじっと見た物が少し動いたのを見たのだ。だから私はハルに聞いた。  「ハルってさ、触らないでも物が動かせるの?」  今までは話しかけても答えることはなかった。お父さんとお母さんがいない間、私は自分が出来る限りハルに話しかけてはいたけれど、きっと理解もしていないと思っていた。その時も同じで、答えなど期待していなかった。だからその音を聞いた時、一瞬偶然だと思った。  「うぅ」  私の質問に合わせるように、ハルがそう声を出したのだ。ハルはハルが声を出したい時に言葉のない声を出すことはよくあるので、その時はたまたま私の後にそう声を出したのだと思った。だが、まさかなと思いつつ確認のために私がもう一度、  「えっ、そうなの?」 と聞くとハルは再び、  「うぅ」 と言ったのだ。会話している。今私は、初めてハルとまともに会話している。自分が聞いた内容よりも、その事実に私はとても興奮した。  「ねぇねだよ?ねぇねって言ってみて?」  まだ早いんじゃないかと思ってはいたが、勢いで喋るんじゃないかと促そうとしてみた。でもやっぱりハルはじっと私の顔を見たままだった。言葉は理解してるけど、話すのはまだ早いのかと思っていたその時だった。  「ねぇね」  なんとハルがそう言ったのだ。ハルが初めて言葉を話した。お父さんとお母さんには申し訳ないけれど、今この感動的な瞬間を私が独り占めしてると思うと更に私は舞い上がった。  「凄い!!凄いよハル!!」  私が興奮してハルに抱きつくと、ハルは笑った。
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